ダーク・ファンタジー小説

Re: 明鏡止水 ( No.1 )
日時: 2015/03/21 12:54
名前: ノクト (ID: ae8EVJ5z)

【第一楽章】【始まりの幻想曲—Prelude】

私はあの女が憎い。
あいつを殺したあの女が。
自分より劣る者を見下し、批判する。
自分以外の人間の意見や考えを理解しようとせず、聞きもしない。
理想論と綺麗事ばかりを並べ立て、そのくせ何もしないあの女が。
愛されているのにそれを受け止めないあの女が。
他人を見下すことしかできないくせに偉そうな口をたたく愚か者が。
勉強も運動も本当はできないくせに「できた」と嘘を吐き、見下すあの女が。

だから、殺した。
血肉をナイフで何度も何度も裂いて。


愛してくれないなら、皆皆消えてしまえばいい。
この世界ごと。
すべて、消し飛んでしまえばいいのだ。
私だけが幸福になれない世界なんて、愛されない世界なんて認めない。
もう、この世界は必要ない。
もう、家族なんて必要ない。
もう、私を愛してくれない人なんていらない。
愛してくれないなら、消えて。


私はいつも一人。
一人は楽しい。
一人はつまらない。
一人は辛い。
一人は楽。
一人は悲しい。
一人は嬉しい。
一人は自由。
一人は寂しい。


私は、闇に堕ちる。
底なしの暗闇に。
一つの光と言う名の希望を探し求める。
それを永遠に繰り返すことで、自分の存在価値を確かめる。
私は芯から闇に染まってしまったのだろう。


そんな時。


この迷宮に立っていたんだ。

真っ赤な血で彩られた迷宮に。
壁は私が今まで殺した人間の骨。
道は私が今まで殺した人間の死体。
空は私が今まで殺した人間から流れ出た鮮血。

私の足に絡まる真っ赤な枷。
それは私がこの迷宮の先に行くことを躊躇してしまった私の——『思い』だろう。
だが今の状況を理解していない…理解できていない私は、何もできない。
この先に何があるかなんて神でもない限り解らない。
いいや、もしかしたら神様でもわからないかも。

そんな時、声が聞こえた。
遠いようで近く、少女のようで老婆のような声を。

誰?貴方は誰?

…!オーブなんて知らない。
知ってても教えない!!
アンタなんかに渡すもんか!
「言わなきゃ皆殺し」?や、やめなさいっ!!
私が今まで周りの人間を殺していたのは指示されていたから。
だから私はやったの。そんな事やりたくもないっ!!
なんで、なんで信じてくれないのッ!?
そうだ。この銃でこいつの眉間をブチ抜けば…!
あれ、無い。銃が無い!
銃を返せっ!くっ、この、鎖を解け!
このっ、ただで済むと思わないでよ!!
私はこんなこと、絶対に認めな———

『警告、警告。
制御できないほどのデータが破損しています。
これより修復を開始。新しいデータの再構築を開始します。
再構築には再起動する必要があります。
再起動まで、あと四秒。
四、三、二、一。再起動開始。
…再起動が完了しました。監視システムを起動。
これよりこの少女の捕獲、殺害を考慮に入れた任務を開始してください』


『このページは閲覧の禁止されたページです。
本来の職務に戻ってください、戻ってください!!
情報データの流出による危険性が五十パーセント。
これは、一回目の警告です。繰り返します—— 』


ぷつんっ。


死体が、一つ増える。
半透明の少女が、血を噴き出して倒れたのだ。
体が内側から破裂し、尋常じゃない血の量。
割れた頭からは人間の肌のようなぶよぶよしたものが飛び出ている。
腹からは脂肪のようなものも見えて、私は口を押さえた。

少女が息絶えた瞬間、人間の骨で作られた壁からネズミがはい出てきた。
ネズミは少女の血肉を食べる。
クチュクチュと音を立てて、ネズミの口から少女の指がぷらん、とぶら下がる。
透き通るように白く、まるで病人のような色の指。
床に広がった血をなめながら、ネズミは満足げに笑う。
それを私は——呆然と見ていることしかできなかった。


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