ダーク・ファンタジー小説
- Re: 明鏡止水【オリキャラ募集中】 ( No.29 )
- 日時: 2015/04/23 20:00
- 名前: ノクト (ID: PST93anq)
「青」をそのまま具現化したような、凛とした少女。
少女が佇むはサーカステント。
二年前、両親を殺した場所だ。
少女の名前は、「津々」
津々はサーカステントをぐるりと見まわした。
火の輪をくぐる猛獣。それを「操作」している道化師。
テーブルに置かれたトランプを一つずつ客に見せ、手品を披露するマジシャン。
空中ブランコに乗って魚のように飛び跳ねるブランコ乗り。
物陰から客席を見て歓喜に渦巻く空気をめいっぱい吸い込む団長。
そして———俺を濁った眼で見つめる、両親の目。
なにもかもが「あの日」と同じだった。
両親に殺されかけた、「あの日」と。
俺は苦笑する。
楽し「かった」あの時の光景が広がっていたから。
『母さんっ!!あっちでポップコーン食べたい!!」
『良いわよ。でも、ちゃんと残さず食べるのよ?もったいないからね』
『分かってるって!ほら、早く行こっ』
『津々は元気だなぁ。浮かれすぎて転ぶなよ?』
『もう、ひどいなぁ、父さん。私はそんなドジなことしないって!』
『あらあら』
俺はにやりと笑う。
サーカスを初めて見た時の高揚した気持ちを思い出したからだ。
『わーいっ!サーカス!初めて見たぁーっ』
『こら。他のお客さんたちもいるのよ。もっと落ち着いて』
『だって、ライオンが日の輪をえーいってくぐるんだよ!?
空中ブランコとかどうやってやってるんだろ?
あっ!今の!見たっ!?マジシャンの手の中にあったトランプが一瞬で!!』
『本当にすごいわね…遠くから来たかいがあったわ、ねえ、あなた』
『ああ、本当だな。…というか、津々。お前、もうちょっと落ち着け』
俺は怒る。
俺を殺そうとした、あの両親がいるからだ。
『とうさ…ん?かあさん?…なんで…』
『悪いけど、貴方には死んでもらわなくちゃいけないの』
『お前のその命こそが、世界の調和を保つワクチンなのだから』
『…意味わかんないよぉっ!どうして…なんで…』
『あらあら。津々ちゃん。あなた、「なんで」しか言えないの?
母さんはそんな子に育てた覚えは無くってよ?』
何故。何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。
何故、あの男と女がいる?
俺が殺した筈。
原形をとどめていないくらい包丁でめちゃくちゃに刺したからだ。
俺の隣で幸せそうに笑い、話していた両親が突然懐から包丁を取り出し、俺を殺そうとしたとき。
俺は母親の足に自分の足を引っかけ、躓かせて。
母親の手にあった包丁を奪い、容赦なく二人の男女に突き立てた。
両親と過ごした毎日は幸せだった。
優しい母親と、逞しい父親。
二人とも、娘である俺の誇りだった。
だからこそ、二人が自分を殺そうとしたことに憤りを感じた。
そして——怒りのままに包丁を突き立て——殺したのだ。
なのに。
何故、あの二人がいる?
俺は頭が悪いほうだ。だから、自分の本能のままに行動する。
だが、いくら本能に身を任せても——わからない。
当然だ。俺は考えることを放棄していたのだから。
俺はゆらゆらと両親に近づく。
両親の目が俺をとらえた瞬間、懐にあったナイフを突き立てた。
ぐしゃり。
肉がつぶれるような音が響く。
俺がナイフを両親に振り下ろす前に、両親の頭上から分厚くて巨大な鉄の塊が降ってきたのだ。
両親の体は鉄の塊につぶされ、腹からはまっかな果実がこぼれだしている。
飛び散った脳漿があたり一面に敷き詰められ、ごぽごぽと「なにか」の音が鳴る。
音のするほうを見てみると、母親の口からそれは発せられていた。
突然の出来事で肉体が「死」を実感できていないのだろう、母親は俺に向かって醜い声を出す。
つぶれたカエルのような声。
おかげで、何を言っているのかわからない。
まぁ、この女の言うことなんで分かりたくもないが。
母親——いや、この肉の塊は、喉に血が詰まったのかごほごほとせき込んでいる。
首だけを動かし、腹からはみ出した腸を見たとたん、顔がゆがむ。
そしてそのまま、動かなくなった。
俺はぷいっと顔を背ける。
俺を裏切った二人の姿なんて、見たくもない。
絶対に俺はもう二人の姿を見ないぞ、
と変な意地を張っていた俺だったが、それはすぐに打ち消さざるを得なかった。
背後からまぶしい光が放たれているのだ。
その光が敵だとしたら、背後を向けることは許されない。
俺はゆっくりと両親の死骸の方を向いた。
「…なんだ、これは」
さすがの俺も動揺するしかない。
なぜなら、両親の姿が、消えていくからだ。
手から腕、胸、と。
消えた個所からは文字化けした記号のようなものが表示され、なにが書いてあるのか判別できない。
そして、視界一杯に黄色い燐光が広がる。
光に包まれた俺の耳に、懐かしいメロディが流れる。
どこかで聞いたことのあるような歌声。
心地よい感覚にさいなまれながら、俺の意識は深い闇の中へ落ちていった——。
Next.