ダーク・ファンタジー小説

Re: __超能力開発販売機構__【キャラ募集なう】 ( No.15 )
日時: 2015/03/22 17:39
名前: cheesecake ◆o7IoaYt5UM (ID: TiyGL1QZ)


「……それでは、今日の社会科の授業では、"テクノロジーの進歩と社会への影響"についてレポートにまとめていきたいと思います」

……金曜日の五時間目。
一日のうち、一番眠い時間なのに、社会科の授業というのは何事か、嫌がらせなのか?
しかも、レポートを書く課題となると、これはひどすぎる。
先生の声と、ぽかぽかと窓から入ってくる3月の日差しは、秋澤修人にとって史上最悪の敵であり、禁断の"居眠り"という行為への誘惑であった。

「先週、"日本の産業発展と社会の変化"の単元を一通り学び終えました」
社会科教師の厳しそうな声がつんと教室に響く。
修人の目は、すでにとろんとして閉じかかっていた。
「その学びを深めるため、皆さんには席別の班になってもらい……」
ゆらゆら、かくんと修人が揺れる。既にほぼ眠気に負けてしまっているようで、目を閉じ、彼は椅子に力なく腰掛けていた。
「それぞれ独自の産業発展をテーマに、模造紙一枚分のレポートを……」
……ガタン。
「……」
眠っていてバランスが不安定だった修人の体は、己の頭の重さに耐えることができず、頭を机にぶつけてしまった。大きく鋭い衝撃音が響いてもなお起きないでそのまま寝始める修人に、

「……ちょっと、秋澤?!」

……隣の席の神原亜矢が慌てて彼の肩を揺する。「何寝てんのさ、先生に怒られるよ?!」
そんな彼女にも修人は無反応だ。
「ねーえ、ってば。先生見てるよ、なんで起きないのッ」
亜矢は必死に修人を起こそうと試みるが、彼は石のように全く動かない。
しかし。
「……秋澤修人君っ!!」
先生のキンとした声が上がると、流石の彼も起き上がった。
「……なんすか」
「なんすか、じゃないです! 授業は真面目に受けましょう。ましてや居眠りなんて……もってのほかですっ!」
先生はそう言って眉間にしわを寄せる。
「……だから言ったでしょ」亜矢もため息をついて言った。

……うるさいなあ……

授業とか、だからやる気でないんですけど。
ガミガミ言われんの、不快。


修人は、めんどくさそうに「……さーせん」とつぶやき、また机に突っ伏した。



……これも、全部超能力を手に入れれば終わる日常なのかな……
いや、絶対にそうだ。
……彼は机の中に入れた、今日の登校途中にもらった一枚の広告をチラリと見る。

「緊急募集」
そう称されたこの一枚の紙切れは、修人にとっては美しい真珠のように見えた。

……いつもだったら、世界中でも一握りの大金持ちしか手が出ない金額で売られている超能力が、この抽選に当たれば……
ただで、得ることができるんだ……!
そう考えると、自身が興奮していくのがわかる。

修人は自他共に認める、大変めんどくさがりな性格であった。
自分が今こうやって勉強しているのも、将来楽をするため。
働く以外の方法でお金をがっぽり稼ぎ、自由気ままに人生を謳歌したい彼。
そんな、一見叶うはずのないような願いでさえ……
超能力があったら、きっと叶うはず。


なんとしても、性能テストの参加者抽選に当選せねば……!
複数口応募するか……

修人は授業そっちのけで、そんなことを考えていたのだった。




***
「……それでは、説明は終わりにして作業に移りましょう。今回の作業では、隣の席の生徒と共同でレポートを作成するので、テーマについて話し合う時間を設けます」
先生はそう言い、生徒たちに話し合いを始めるように指示した。

神原亜矢は、自分の隣の席の人物……秋澤修人にどう対処しようか悩んでいた。
ぐっすり寝ている彼。
その寝顔はとても穏やかである。すーすー、と時折漏れる寝息はとても平和な響きであった。
とても、幸せそうな雰囲気であった。
しかし。

「……っ!」
……その雰囲気に騙されてはいけない。
亜矢は、少しばかり悩んだ末、容赦無く修人の頭に拳を叩き込んだ。

「…痛ぇんだよ! 何しやがる!」
あまりの衝撃に、流石の修人もパッチリ目が覚めた。
「なんで寝てるわけ? 今なんの時間だと思う? そもそも今なにやるか分かってるの?」
亜矢も負けずに言葉のナイフをぐさぐさと修人に刺していく。
「そんなこと、俺の知ったこっちゃねえな。俺は寝るから勝手にレポート書いてて」

「……ねえ、バカ?」亜矢は呆れて肩をすくめた。

「……この課題は共同作業なの。あんたの成績が減るだけだったらいいけどさ、あんたの居眠りはこっちの成績にも大きく影響するわけ。やることちゃんとやってから寝てください」
「……」
ぴしゃりとそう述べた亜矢に流石に申し訳ないと思ったのか、修人はかくんと顔を上げた。
「じゃあ、まずは……テーマは何にする?」亜矢は修人が起きてくれたことに少し安心して言った。
「テーマ?

いや、そこは"超能力がもたらした社会への影響"に決まってるだろ」
「は?」

「ああ」今までのやる気のない態度は何処へやら、修人は机から身を乗り出して言った。
「すごくないか? 今までSF小説で夢見ていた能力……テレパシーだろ、テレポートだろ、はたまた念力とか……それが、お金さえあれば手に入る物になっちまったんだよ!」
「うん、そうだね」亜矢はとりあえず頷いた。
「それって、今世紀の最大であり最強の発明だろ! テーマとしてぴったりじゃないか!」
「……秋澤がやる気になるんだったら、そのテーマでいいや」亜矢は修人が異様に超能力にこだわっていることに苦笑しながら言った。
「それにさ、今日俺こんな広告もらったんだよね」修人は机の中から「緊急募集」の広告を出す。

「あ、それ、知ってる」
「俺はもちろん応募する。お前は応募しねえの?」

「うーん……」
亜矢は、別に超能力が欲しいわけでも、はたまた興味があるわけでもなかった。
さらに言えば、亜矢は何か一つのことに打ち込んだり、何かに夢中になったりしたことが一回もない。
……全て、「なんとなく」で物事を進めてしまう。
部活だって、なんとなく。
遊びにいくのだって、なんとなく。
時の流れに逆らうことなく、亜矢はいつでもフラフラ浮遊していた。
「どうしよっかな……」

「しねえの馬鹿?!」修人は顔をしかめて言った。
「こんなチャンス、一生に一回しかないんだぞ? 人生有意義に使おうとは思わないか?!」

修人のあまりの熱意に、亜矢は勢いで頷いてしまった。
「え、あ、うん」
「じゃあ今日応募しておいたらいいじゃねえか」そう言って修人は席についた。
同時に、きーんこーんかーんこーんと鳴り響くチャイム。

修人はまただらりと適当に礼をすると、ぼけーっと席に座り机に突っ伏してしまった。
……うん、これがいつもの彼だよね。
亜矢はその様子を見て苦笑する。

……でもなあ……
そんなに、秋澤は超能力にこだわってるんだ……
さっきみたいな様子の彼、初めてみた。