ダーク・ファンタジー小説
- Day 0-2 ( No.28 )
- 日時: 2015/07/16 16:32
- 名前: cheesecake ◆o7IoaYt5UM (ID: g/om0k0Y)
お待たせいたしました。
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「……ねえちょっと秋澤の馬鹿、何でまた寝てんの?」
「るっせえ。自分の成績だけ心配しとけばいいんだよ、余計なお世話なんだっつーの。
だから中3なのに彼氏できねえの」
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「……意味わかんない……」
午後四時、日が西に沈みかけている。茜色に染まった空の下、いつも通りの帰り道を亜矢は一人寂しく歩いていた。その肩は力なく萎んでいて、見るからに疲れている様子である。
「もうすぐクラス替えだからいいけどさ、秋澤って本当最っ悪」
ぼそりと一人で愚痴をこぼしつつ、ため息をついたその時。
「亜矢お姉ちゃん!」
後ろから、亜矢とは正反対の明るく元気な少女の声が響いた。
「秋澤、ってだあれ?」
「あぁ…………」
「シャロン、気になるなあ。亜矢お姉ちゃんの彼氏だったりして!」
「違うからね?」亜矢は光の速さで即答した。あんな奴が彼氏だなんて、考えたくもないんだけども。
「えぇ、違うんだ……じゃあ、秋澤ってだあれ?」
シャロンと名乗った金髪の少女は、元気いっぱいな笑顔を顔に浮かべていた。
星海シャロン。
亜矢は、彼女のことをまるで自分の妹のように大切にしている。
彼女一家は、亜矢が小4の頃にこの地域に引っ越してきた。シャロン自身は、父が日本人で母がイギリス人のハーフである故、その髪は見事に輝く金髪であり、目も緑色で肌の色も他と比べて一段階白く感じられる。
そのため、ピカピカの一年生として当時入学してきたシャロンは、あらゆる意味で生徒の注目の的となってしまった。
「ガイジン、ガイジン」
「日本語できるのー?大体さ、授業の意味わかってる?」
幼さから放たれる言葉は、ガラスの破片のように小さいシャロンの心を切り裂いたのだった。だんだん彼女の取り柄である元気さがなくなっていくのを感じ取った当時の担任は、近くに住んでいて通学路もほぼ同じである亜矢に助けを求めた。
「神原さん。……あなたなら、彼女に大人の対応ができると信じてます」
その一連の話を聞いた亜矢は、大人の対応がどうたら、というよりもシャロンの血筋を茶化す発言が気に入らなかった。確かに、髪色や肌の色は違うけど、彼女は日本語もとても流暢だし (むしろ英語の方が苦手らしい)、全然そこらの小学校一年生と変わるところがないではないか。
初めてシャロンの家へ彼女を迎えに行き、身長もスラリと高く掘りの深い顔立ちをしているシャロンの母に会うのは少し緊張したが、今はそれだって慣れっこだ。
むしろ、星海さんも星海夫人も優しく人当たりが良いタイプで、亜矢は彼らが大好きである。
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「秋澤ね……うーん……めんどくさがりやのダメ男、って感じかなあ」
亜矢は少し首を傾げながらそう言った。
「ふーん……で、秋澤はどんな感じで亜矢お姉ちゃんと関係があるの?」
「隣の席なんだよね。あぁやだ。くじ運悪すぎだなあ、私」そう吐き捨てた。もう本当にくじ運ばっかりはどうにかしてもらいたい。
「うーん、席がお隣だとどんな風に迷惑なの?」
「例えば……」亜矢は、今までに修人が自分にかけてきた迷惑行為を思い起こした。
「授業中寝てるから、起こさないといけないし……なのに、起こすとなんか怒られる」
「え、亜矢お姉ちゃんは授業中寝ないの?」シャロンはけろっと爆弾を放った。勿論、本人には全く悪気がない。
思わず無言になってしまう亜矢。
「いや、普通寝ないからね、授業中」
「そうなの?」シャロンは随分不思議そうにしている。「読んだことある小説の中で、主人公が中学生の作品ってだいたい誰かが授業中に寝てる気がするんだけど……」
「え、何それ」
「うんうん、だからシャロンは思ったんだ。中学校って、授業中みんな寝てるのかなあって」
恐ろしい偏見まみれの発言に、亜矢は苦笑した。
「皆が皆、そう言うわけってことはないよ。現に秋澤だって、興味のあることにはかなり燃えるみたいだしね」
…今日の五時間目、超能力についてあんなに熱く語った時のように。
あの”眼”は、怖かった。
いつもだらりとして焦点のあっていない眼は、あんなに眼力を放ち、見るひとを圧倒させるものになり得るのか。
「へぇ……例えばどんなこと?」
「んー、最近は超能力が好きみたいだけどね」
「超能力……」
その言葉を聞いて、少し考え込むシャロン。その表情からは、何かが彼女の頭の中で引っかかっていることがうかがえる。
数秒後、シャロンの頭の中で電球がピカリと光をともした。
まるで漫画の中で登場人物がひらめいた時のように、表情や声色が一気に激変する。
「……そうだ! 思い出した!
シャロンね、亜矢お姉ちゃんにお願いしたいことがあったの!」
「え、なに?」
「亜矢お姉ちゃんにね、シャロンと一緒に超能力性能テストの招待抽選に応募してもらいたいんだ!」
…………デジャヴだ。
「……え?」
「だから、超能力開発なんとかかんとかって施設が募集してる、抽選に一緒に応募して欲しいの!」
満面の笑顔でシャロンは亜矢のほうを期待を抱いて覗き込んでいる。その瞳はくりくりしていて、あどけなくかわいらしい。
「……シャロンさ、超能力とか好きだったっけ?」
「いや、普通だよ。でも、面白くない? 無料だし、選ばれたら能力も貰えちゃうし、行ってみてもいいかなーって思って。でもね……」
彼女は少し心配そうな表情で亜矢のセーラー服の袖を引っ張った。
「親の付き添いがいらない、っていうのが条件なの」
「うん、知ってる」
知ってるも何も、あの後終礼中秋澤にあの広告を熟読させられてたんですけどね。
…お陰で、大体の募集要項やルールは覚えてしまった。
「ここまできたらわかるでしょ、お姉ちゃん知ってるよね? うちのパパはそういうのに厳しいってこと」
あー。
シャロンの親は心配性なところがあり、あまり遠くにシャロンを一人で行かせたくないと考えているようだ。現に、一人でいるときの彼女の行動範囲は学区内だけと家のルールで決まっている。
ましてや、電車を乗り継いで超能力の性能テストに行ってくる、なんて言ったら何を言われることやら。
しかし、シャロンはこう考えた。
親も信頼している亜矢お姉ちゃんと一緒に出かける、と言ったら、許してくれるのではないだろうか。
「あ、でも予定とかあわなさそうだったら全然いいんだよ?」
「ううん、私、応募するよ。絶対する」
亜矢はシャロンの顔をしっかり目に見てそう断言した。
秋澤にも応募しろ応募しろ言われたし、シャロンにも応募して欲しいとお願いされたし、そもそも倍率が高いだろうから三人とも当選さえしないだろうし……
それに、何かいい経験になるかもしれない。
それとも、彼女自身も何処か心の中で超能力を欲しがっていたのだろうか。
「いいの?」
シャロンの目に輝きが増す。
「もちろん、いいよ。……今から私の家に来て、一緒に申し込もうか?」
「やったあ、亜矢お姉ちゃんありがとう!」
シャロンは、亜矢にぎゅーっと抱きついた。思わず不意打ちでよろける亜矢。
それでも、すぐバランスを整えて、亜矢もシャロンをぎゅっと抱き返し、ニコリと笑顔を浮かべた。
彼女の柔らかい髪が手に当たる感触は、とても心地よかった。
〈3/2 (JPN time) 15:48 秋澤修人…申込確認〉
〈3/2 (JPN time) 18:02 星海シャロン…申込確認〉
〈3/2 (JPN time) 18:07 神原亜矢…申込確認〉