ダーク・ファンタジー小説

Re: パン屋の剣士さん!~3人の恋~ ( No.3 )
日時: 2015/03/26 19:21
名前: みーこ ◆jdHxHHqZ4A (ID: wJ5a6rJS)

「紅!また、修行サボったの?」

紅は、青い空の下で、計999回目の説教を受けていた。
顔を真っ赤にして、怒っているのは、道場の先生の孫の『千光寺 青』だった。

この時、紅は、13歳。青は、12歳。
年下の奴に、説教されるのは、苦痛で苦痛でたまらない。

「おめぇなぁ・・・年上の奴に、よくも説教できるよな。」

「剣士としては、私の方が、力は上だよ!紅!6年も早く習い始めて、この腕とは、お前には、剣の才能は、無いんじゃねぇの?」

青は、フフン、と鼻で笑った。


ああ?
なんだと?


「おめぇだって、まだ、まともに斬る事なんて、出来てねぇし、
停止術も、0,1秒しか止められねぇじゃねぇか!
そんな奴が、俺に口出しスンナ!」

紅は、ゴツーンと青の頭に拳をお見舞いした。
すると、青は目を吊り上げて、

「いってぇ。乙女は、大切にしろよ!」
「おめぇのどこが、乙女だよ!」

青は、刀を鞘から抜き、紅の首にあてた。

チャキ………

キラリと、刀が光る。

「殺されたいの?」

青が、声のトーンを下げて喋る。

しかし、紅は、余裕の笑みを浮かべ刀をつかんだ。
青の額から、汗が流れ出る。

カチャカチャと、手の震えと共に音が鳴る。




バキッ




刀が、地面に落下した

「俺の力で、真っ二つに、
なるような刀が相棒なんて、剣士もダメダメだなぁ〜」

紅は、鞘で青の頭を、コツンと叩いた。

「もっと、鍛えろ…」

耳元で、紅は、囁いてきた。
ギリッと、奥歯が音を立てる。

「私、絶対にお前を超える。
おめぇみたいな、ヘボ剣士に負けるもんか!
父ちゃんに、教えてもらって、紅を倒すんだ!」

「どうぞ・・・ご勝手に。」

紅は、服を脱ぎ捨て部屋の中に入っていった。
青は、独り取り残された_________

「私。剣士には向いてないのかな?
やっぱり・・・家を継いだ方がいいのかな・・・」

青の家は、パン屋だった。
兄弟のいない、一人っ子の青が継がなければ、
パン屋は、潰れちゃう・・・・

青は、道場を後にした___________
もう、ここには来ない。








絶対_______________________________

青は、家に向かって歩き出した。
青の家は、町はずれのパン屋さん。


お客は、ほとんど来ない。
なぜならば、町の真ん中に、数日前大きな市場が出来たのだ。
みんな、そっちへ流れちゃった。
だから、パンはいつも売れ残る。
残ったパンは、夕食になる。




「青!」

母親が、青を呼んだ。
倉庫からの声だ。

「なぁに?」

店の裏の倉庫に回ると、母親と_________


「緑!」

「どうも。」

緑は、ペコリと会釈をした。
青は、目を丸くした。
なぜ、緑がいるの?

「んじゃ、今日はこれで。」

緑は、青に向かって、向日葵のような笑顔を見せた。

緑の手には、うちのパン屋の紙袋が抱かれていた。
青は、にこっと笑いかえす、また店に戻った。




その時、




「ちわーっす。」

ででででででで、デデーン!


紅・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「なんで、来たのよ!」
「道場帰り。昼飯買いに来たんだよ。」

ポンッと、腹をたたいて笑う紅。


時計を見ると、10時。
昼飯には、早すぎる気がするけれど。


「んじゃ、揚げパン!」

小銭を、青のエプロンのポケットに突っ込むと、
揚げパンをひったくって紅は、帰って行った。

「んじゃ〜な。」
「もう、二度と来るなぁ!」

青は、笑顔と、怒りの表情が混ざった複雑な顔で、紅を見送った。

バタン!
扉が、閉まりまた、店の中は静かになった。
今まで、騒がしかったのに……

青は、店の裏の、倉庫からモップを取り、戻ってきた。

「青!騒がしかったけれど、お客?」

「・・・・うん。道場の【先輩】。うるさい人だよ。」

モップをかけながら、母親と会話をするのは、青の大好きな事。
会話は、大好き。

「青!明日の、道場の朝練いくの?」

その瞬間、青の表情が一変した。
笑顔が、強張った。





もう・・・・道場には、行かない




「あっ・・・明日は、手伝いするよ。うちの」
青の額から、冷たい汗が流れ出る。

「でも、今月、大会でしょ?行かなくていいの?」
母親の、何でもない、ただの質問が、胸に突き刺さる。

うぐぐぐぐぐぐぐぐぐうぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ。

行きたいよ,でも__________________
















私は、弱いんだよ。
私は、剣士に向いてないんだよ。
そんな奴が、試合に行ったって………


「青!パン、出来たから、並べてくれないか?」

父親が、太い腕で手招きをしていた。

「いいよっ!」

青は、駆け出した。
少しは、気分転換になるだろうか。

___大会当日___

待ってもないのに、朝を迎えた。
剣術大会は、9時からの為、まだ十分時間はあった。
父親が、手に入れた出場者名簿を見ると、あの2人も、出場するようだった。

「青?やっぱり行くって、どうして?」
道着に着替えていた、青は、何も言わなかった。
そして、沈黙を貫いたまま、家を飛び出した。


坂を三つ超えた先に、会場はあった。
すでに、ボルテージは、MAXになっていた。
額から吹き出す汗を、袖で拭きながら、今、試合中の選手を眺めていると、後ろから係員に、

「あなたは、参加者ですか?」

と、名簿を見せながら話しかけられた。

「飛び入り参加って、アリですか?」

「無理だね。事前参加が、ルールだからね。また、来週の大会でも参加したら?」

そういうと、係員は、ケラケラ笑いながら、歩いていく。
青は、『ルール』だから、と自分で納得して観客席へ入る。
まわりは、保護者だろうか。
自分より、年上の人間しかいなかった。





いきなり、ボルテージが上がる。
ハッと、ステージを見ると、選手が入場を始めていた。

『いよいよ!子供の部です!』

きっと、この部門で紅や、緑が試合をするんだ。









「あっ・・・・・・・・」

青の目に、信じられないものが飛び込んできた。
東西、分かれて試合をするのだが、


東・紅
西・緑


あの二人は、敵として出場していたのだ。
「私は、どっちを応援するべきなの?」


緑は、有利にゲームを進めていた。
紅が、追い詰められていく。

(紅!・・・負けないで!)

キーーーン

刀が、ぶつかり合う。


ピキイキピキピキ


2人が、知らないところで、不吉な準備が進められていた。