ダーク・ファンタジー小説

Re: ★パンやの剣士さん!~3人のこい~★ ( No.5 )
日時: 2015/03/26 19:27
名前: みーこ ◆jdHxHHqZ4A (ID: wJ5a6rJS)

_____あれから、数年経った。

緑は、努力を重ね、紅に試合を挑んだ。
もう、負けない。
___その気持ちで。

しかし、紅は、暗い顔をして一枚の紙を見せた。
赤い、薄い紙。
黒い文字が、印刷されたモノ。
漢字と、カタカナが混じり、パッと見、何が書いてあるのかわからなかった。


「戦争召集命令」


えっ・・・・
その、6文字は、
瞬時に頭の中の
思考回路をかき乱した。

「俺さ、軍隊に入らないといけなくてさ、
だから、もう・・・無理」

「嘘だろ・・・俺には、
そんな紙届いてねぇ!」

緑は、受け入れたくなかった。
紅が、遠く離れた世界へ行かされるなんて。
俺は、戦争に行く必要が無いなんて。
世界から、見捨てられた気分だ。
俺は___戦力外かよ。

紅は、頭にかぶった『軍人的な帽子』、深く被り直し、歩き出した。
黒いブーツが、砂を蹴散らし道を作っていく。

「おい!逃げるのかよ!」

緑は、
とっさに叫んだ。
こうでも、言わないと、紅は止まらないと思った。
『行くなよ』その、言葉は紅には届かない気さえした。

「逃げるんじゃねぇ!4年後に、帰って来る!」

顔をグッと下に向けた紅は、
どこか悲しげで。

頬を、冷たい滴が流れ落ちていくのが分かった。
もし、死んでしまったら_____________

「死ぬんじゃねぇぞ!」

「俺が、死ぬわけねぇだろ!緑、青を頼んだ!」

緑色、迷彩柄の、服を着た紅は、カッコ良かった。

ライバルだけれども、
カッコ良かったよ。



このことを、青に言うべきだろうか。
青は、紅が、戦争に行くなんて知らないはずだ。
でも・・・知ってしまえば、悲しむ。




「紅___・・・・」

青の、目から滴がこぼれ落ちた。
太陽の光が、反射して、ダイヤモンドのように光る。
紅が、遠くに行ってしまう・・・
辛いよ。

たまたま、青は、この話を聞いてしまった。
聞くつもりはなかったけれども____

というより、聞きたくなかった。



緑は、紅の姿が見えなくなると、
元来た道をセカセカと、歩き出した。
いつもより、ペースが上がる。
今、青と会えば、紅のことがバレる、そう思った。

途中で、ピタリと、脚の動きが止まる。
ザクリ、と草履と土がこすれる音がした。

目の前に_____





目の前に____青がいた。
体が、固まり、身動きの取れなくなった、青が。
ギュッと、手に力を込めて突っ立っている青が。

「聞いてたのかよ。」
怒り……より、悲しみの、こもった声。

「ゴメン・・・聞くつもりは、なかった。」
青も、罪悪感と、悲しみが、心の中で、
渦を巻いているのがわかる。

俺は、青を無視して、家へ走った。
目を、ギュと瞑り、何も見ないようにして。
苦しい………青にだけは、伝えたくなかった。
脚が、棒みたいだ。
痛くて、痛くて、息が苦しいけれど、
俺は立ち止まらない。
立ち止まれば、振り向き、
青の顔を見てしまいそうだから。

俺は、弱気な青を見たくない。

いつも、笑って、
『向日葵のような』青しか、俺は知らない。

涙が、頬を伝い、背後へ消えていく。
服の袖で、涙を拭う。
男が、泣くなんて。

緑は、家に戻ると、屋根裏部屋へ続く階段を駆け上がった。
屋根裏部屋の、扉を固く閉め、ベットへ寝転ぶ。

止まらない涙が、シーツを黒く変色させる。
(なんで、俺が泣くんだよ!)

いつのまにか、怒りの矛先は
自分へと変化していた。

「ああ゛!」

虚しく、その声は、闇の中へ吸い込まれていった。
シーツを、引っかき、羽を飛ばす。
部屋中を、羽が埋め尽くし、別世界に来たようだ。
重力により、落ちる羽は雪のようだ。

(俺じゃねぇよ!1番辛いのは_____)

1番辛いのは、紅でも、俺でもない______


青だよ。



1番辛いのは。



ずっと、身近な存在、だったのは同じ。
皆、幼馴染だ。

けれども、青にとって、紅は、もっと大切な存在だったはずだ__
『ライバル』の俺たちより、もっと失いたくない・・・

『大切な存在』なのは、間違いない。
そう、断言してもいいと思う。

ベットを叩くたび、羽は宙へまた浮く。


いつの間にか、《落ち着き》が戻っていた。
いつもの自分。
毎朝、鏡の前で会う、俺だ。


*・゜゜・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゜・**・゜゜・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゜・*



「紅_____」

青は、道路に突っ立ったまま、
紅の事を想っていた。

静かな道路なら、人目を気にせず、
泣くことが出来た。
涙が、枯れるまで___

泣くことが出来た。

草履の小さな脚を、
動かし、家へ戻り始める。

「青!」

途中で、誰かに名前を、呼ばれた気がして
歩みを止めた。
振り返ったが、誰もいない。

もし、呼んでくれたのが、紅だったらどれだけ嬉しかったことだろう。
青は、俯き、また歩み出した。


*・゜゜・*:.。..。.:*・'・*:.。. .。.:*・゜゜・**・゜゜・*:.。..。.:*・''・*:.。. .。.:*・゜゜・*



「青・・・緑___」

表情は、帽子に隠れて見えないが、
『悔しさ』『悲しみ』『怒り』の混ざった複雑なものだ。

(みんな、元気でな。)

心の中で、
最期になるかもしれない
挨拶を送る。

バスに乗り込み、
赤紙に指定された場所へ向かう。
料金は、後払いでいいらしい。
車掌は、赤紙を見せると、微笑んで、"どうぞ"と手を動かした。


「絶対・・・生きて帰ってくる!」

紅は、前列右側窓席をとった。
お気に入りの席だ。
大きな荷物は、足元に置く。
黒いコートは、隣の席に置かせて頂く。
右手には、しっかりと赤紙が握られている。

『出発いたしまぁーす』

窓枠に肘をのせ、静かに、故郷を離れて行った。










視線の先に、パン屋がある。
美味しそうな香り漂う、帰り道。
___私の家


クラッ___バタッン!


いきなり、
めまいのようなものがして、青は倒れた。
なんだか、吐き気もする。

(疲れているのかな…?)

体を、起こすと全身に、痛みが走った。

「っ!」

顔が、痛さに歪む。
みると、右足から血が流れ出ていた。

流石に、これはおかしい。

さっき、こけたのも、
そこまで怪我するようなものではないはずだけれども。

______


村の、診療所に青の姿があった。
今は、道場の昼休み。
右手に、ビニール製のバックを持っている。
これは、汗を拭いたタオルなどを入れるものだ。

「千光寺さぁん!」

私の、名前が呼ばれる。
ソファーに置いた、バックとタオルを取る。

診療室に入ると、いつもの先生が迎えてくれる。

「おかぁさんは?」

「ナイショ。心配かけたくないから。
お金は、くすねてきたけれど」

青は、右手に小銭を持って見せる。

「ふぅん。んじゃ、今日はどうしたの?」
「貧血・めまい・吐き気・出血がして……」

右足を、上げて見せつける。

「うん・・・ここじゃ、
ワカラナイから、町の大学病院でも行ったら」

「そうする」

医師に、紹介状を書いてもらい、受け取ると、
立ち上がって、診療室を出た。
カウンターを通り過ぎ、外に出る。

私は_______どうしちゃったんだろう。




少し冷たい風が、青を包み込んだ。