ダーク・ファンタジー小説

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.10 )
日時: 2018/06/07 16:02
名前: とりけらとぷす (ID: nA9aoCfQ)

「私の名前は…」
女の子が言いかけた時だった。牢屋の番人が女の子がいない事に気付いたのか、向こうから走ってくるのが見える。
ーーーーーーまずい。
僕は、女の子の手を引いて逃げようと言った。
でも、女の子は…
「もう、いいんです。私は、こういう運命だから」
僕は、何も言えなかった。”運命”その言葉だけが、僕の頭をぐるぐると渦巻いていた。
女の子の手をそっと離す。
君は奴隷、僕は貴族。生まれてきたのも運命で、身分で分け隔たれるのも、運命だ。
女の子は笑っていた。それを見て、僕は泣きたいような、そんな気持ちになった。
「390!何処へいってたんだ!」
番人はもう目の前に来てしまっていた。
女の子を引っ張って、連れて行こうとする。
これも彼女の運命だとしたら、人生って、なんて不公平なんだろう。
「こっちへこい!…て、アルドリア一族の者じゃないか。これは失礼。お見苦しい様をお見せしてしまい、申し訳ない」
「はい…」
番人は、深くお辞儀をすると、強引に彼女を引っ張って歩き出した。
女の子は、番人の横について、牢屋の方へ歩いて行った。
僕はただ、呆然と2人が去っていくのを見ていることしか出来なかった。
遠くの方で、女の子が振り返って、小さく手を振るのが見えた。
今日は、彼女の命が売り買いされる日。
僕が彼女を止めたから、彼女は望んでいない運命を辿ることになるかもしれない。
僕の”命を絶つのは良くない”という軽い判断が、これから彼女を苦しめるかもしれない。
僕の判断は、本当に正しかっただろうかーーーーーーーー?
僕のした事は、ただ、彼女の命を少し伸ばしたに過ぎない。
朝日は徐々に上に昇っていく。あの冷たい夜も、さっきまでのことも、何もなかったようにーーーーーーーーーーー消していくんだ。