ダーク・ファンタジー小説

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.11 )
日時: 2015/06/04 17:42
名前: とりけらとぷす (ID: Hh73DxLo)

第5話【命を買うこと】

僕はずっと広場で座り込んでいた。
街の灯台の鐘が鳴り響く。
街の人は皆目を覚まし、街はまた、何もなかったように活性している。
「寄って集ってらっしゃい!今日は良いのが入ってるよ!」
広場では、奴隷売りが濁声で叫んでいた。
「今日のは若いよー!なんと、まだ十代!働くよー!」
その奴隷売りの後ろに、白い布を着た、ピンク色の少女が見えた。
あれはーーーーーーーあの子じゃないか。
女の子は、昨日、いや、今日。さっき、自分は売られると言っていた。
奴隷売りは段々増えていき、石台の上は、奴隷と奴隷売りでいっぱいになった。
その声を聞き、貴族達は集まってくる。
たちまち、広場の石台のは、人でいっぱいになった。
「100万でどうだ?」
「いやいや、私なら200万で買うぞ!」
「私だって負けまい!500万だ!」
貴族達は、ピンク色の少女を指差しては、こう叫ぶのだった。
僕のせいでーーーーーー。
奴隷売りが、女の子を無理やり引っ張り出し、石台の真ん前に立たせた。
「貴族さんよ、このピンク色の綺麗な髪を見っしゃろ?500万なんて安い安い!この子はアルビノみたいな珍しい人種だからねー!最低1000万!誰か買わんかー?」
広場が命の売り買いで賑わう中、石台の上の女の子だけが、凄く悲しそうな顔をしていた。
今日の朝までに自殺していたら、彼女は、悲しまずに済んだのに。苦しまずに済んだのに。
父親は、いつも言っていた。余計な事はするな、と。
お前の正義感が世の中を狂わせる、と。
本当にそうだ。父親は正しかった。
泣きそうになるのを我慢して、じっとあの女の子を見ていた。
どうにかして、あの子を助けられないだろうかーーーー。
そう思っていると、貴族の人混みの中に、また父親がいるのを見た。
父親を見て、言葉に出来ない苛立ちを感じた。
でも、もしかしたらーーーーーーーー
僕は、人混みをかき分け、父親の元へと足を運んだ。
「おお、レオよ。どうした?また止めに来たのか?」
本当は、顔も見たくないし、話したくもない。
また父親が鼻で笑うのを見て、拳に力が入る。
「違う。今日は、命を買いに来た。父上は、いつも僕に聞くじゃないか。どれがいい?て」
それを聞いて父親は、納得したような、嬉しそうな顔をした。
「レオ、やっと私の言っていることが分かったのか。よし、買ってやろう。さあ、どれがいい?」
「あの子。ピンク色の髪の女の子だ」
僕は、石台の前に立たされた女の子を指差した。
「おいおい、よしてくれよ。あのプレタリアか?」
「プレタリア?」
「プレタリアっていうのはな、何らかの異常で髪がピンクになった化け物のことさ。しかし、あれは300年前に全て殺されたはずだが…」
「それは、つまりそういう一族ってことか?」
「そうだ。プレタリアっていう村があってな。そこに住んでた人は、皆ピンク色の綺麗な髪を持ってたらしい。ただ、300年前に発見されて、化け物のだと言われ全て抹殺されたがな」
じゃあ、あの子は一体何者なんだ?
そんな疑問が頭の中で渦巻いたが、今はそんなこと、どうでもいい。早く、あの子を買わなければ。
父親を見て、いつも醜い行為だと思っていた、命の売り買いを、僕はしようとしてるんだ。
僕も、父親と同じように汚れた人間になったんだ。
もう、ためらいなんてどうでもいい。
自分のしてることは、僕の正義に反するけれど、もう、いいんだ。
「父上、僕はあの子がほしい。プレタリアだのどうだの、そんな事どうでもいいんだ。早く買ってくれよ」
こんなみっともないセリフ、本当はいいたくない。
父親に子供がおもちゃを買ってもらうみたいに、父親に買って買ってとせがむなんて。
本当はーーーーーーーーーーしたくないんだ。
「しょうがないな。まあ、お前が大人になって、貴族として奴隷を買うことが出来た証に、買ってやろう。」
奴隷売りと、石台に集る貴族達は、まだ女の子を指差して、金のことを叫んでいる。
僕も、あの人たちと、同じだ。
父親が手を挙げ、奴隷売りにこう言った。
「あのピンク色の髪の娘は、私、アルドリア・カナリオが買って差し上げよう。値はーーーーー、5000万だ」
周りの空気がざわついた。
石台の上のあの女の子は、目を見開いて、震えている。
「アルドリア一族だぞ?どうする?」
「私は譲るよ」
「カナリオ様、どうぞ」
皆が皆、父親に譲り出した。
此処では、身分の高いものが、勝つ。
貴族の中でも王族に仕えている父親は、貴族の中で一番身分が高いのだ。
奴隷売りは、嬉しそうに笑い、乱暴に女の子を父親の前に立たせた。
「アルドリア一族のカナリオ様に買われてさぞかし嬉しいことでしょう。はい!上がり!この奴隷はカナリオ様のものだ!お代は5000万!上がりぃ!」
父親は、ポケットから5000万の束を出して、商人に渡した。
奴隷売りは、嬉しそうに札束を数えてから、丁度頂きます、と言ってまた、違う奴隷を売り出した。
その光景を見て、世の中って残酷だな、と思う。
ピンク色の髪の女の子は、僕を見て、悲しそうな顔から、すぐに嬉しそうな顔に変わった。
「あなたが買って下さったのね!」
「僕の勝手な正義感が、君を傷つけると思ったから」
「いいえ、とんでもないです。ありがとうございます」
女の子は、深々と頭を下げた。
まるで、人を救ったようだが、そうじゃない。僕は、命を買ったんだ。
こんなに重いことを、軽々と出来てしまう世の中なんだ。
僕と彼女の光景を見て、父親は、まだわかってないな、と言って立ち去った。