ダーク・ファンタジー小説

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.16 )
日時: 2015/05/30 15:46
名前: とりけらとぷす (ID: LpTTulAV)


次の日から、私達は一緒だった。
「ねぇ、390あなた、プレタリアなんでしょ?」
390は、コクリと頷いた。
動揺する様子も見せず、ただ、少し不安そうな表情で。
「綺麗ですね、その髪。145姉さんも、アルビノでしょう?」
その言葉に、私はギクリとした。
そう、私はアルビノだ。色が抜けてしまって真っ白になってしまった髪。何故か赤い目。
私は、何処かで誤作動を起こして生まれてきてしまった、化け物。
私が一瞬暗い顔をすると、390は微笑んだ。
「私達、似てますね」
「そうかもしれない」
私達は、同じ化け物。
生まれてきたことを後悔されるような、どうしようもないもの。
皆と違うから、避けられる。
皆と違うから、酷いことを言われても、しょうがない。
きっとこの子も、私と同じ。
そう思うと、世界って理不尽だ。
私は、二人で、また、146と過ごした時のように、牢屋で生活し、仕事をした。
そして、少しずつ、少しずつ私は、元のように元気を取り戻していった。




そんな生活が、二年続いた。
もう、146の居なくなった悲しみは消えていた。
このまま、この子と仕事をして、牢屋で過ごす日々が、続くと思っていた。
そんなある日、私は、番人に呼び出された。
「何ですか?」
何も知らない私は、のこのこと番人室に入り、番人の前まで行った。
「お前は、今日、いや、今すぐだ」
最初、番人が何を言ってるのか、わからなかった。
「お前は、売られる」
「え……?」
ーーーーーーーー売られる?
頭の中を、この言葉が連呼した。
「どういうことですか?私、聞いてません」
必死になって止めようとした。
だけど、番人室に奴隷売りが入ってきてやっと、後戻り出来ないことに気づく。
「アルビノの子はどこ…ああ、この子か。早く、広場はもうお客きてるよ」
「ああ、奴隷売りか。この子だよ」
番人に背中を押され、私は奴隷売りの前に立たされた。
「ご苦労さん。じゃあ、この子売ってくるよ」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」
奴隷売りが私の手を引くのを突き放し、番人の方へ向く。
「せめて、お別れさせて下さい!」
番人は、少し考えたが、あっさりと許可してくれた。
「よかろう。十分別れを言ってから、広場へ行くといい」
「ありがとうございます」
私は、自分の牢屋へと走った。
真っ先に、あの子へ伝えなくちゃいけない。
心臓の音が、次第に大きくなっていく。
泣きそうになるのを堪えて、私は390に別れを告げに行った。
「390!」
「何です?姉さん……?」
私の顔をみて、390は驚いたような顔をした。
「姉さん?」
「売られる」
「へ?」
「私、今日、いや、今すぐ売られ…!」
最後まで言葉が出なかった。
涙が顔を覆ってしまって、何も言えない。
嗚咽ばかり漏れて、今までありがとうって、言いたいのに言えない。
そのうち、奴隷売りが私のところへ来て、もう時間切れだ、と言って私を無理やり引っ張った。
「……さよなら」
咄嗟に出てきた言葉は、これだけだった。
今なら、146の気持ちが、わかるような気がする。
伝えたいことはいっぱいあるのに、言えない。
言おうとするほど、此処にいたいと思ってしまう。一緒にいたいと思ってしまう。
390は、何もわからないまま、泣くだけで、追いかけることはしなかった。
あの時の、私みたい。
きっと390は、私の事を冷たいと思うだろう。
そして、あの時の私みたいに、一晩中わんわん泣くだろう。
でも、それでいいと思った。
いつかは、390も売られる。
そう、いつかはわかる。
私は、奴隷売りの言うことを聞いて、素直について行った。
抵抗はしない。あの時の、146の様に。
私達の未来は、決まってこうなんだ。
そう、残酷なんだ。