ダーク・ファンタジー小説

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.17 )
日時: 2015/06/04 17:48
名前: とりけらとぷす (ID: Hh73DxLo)

私は、奴隷売りに連れられ、広場の方へ出た。
次第に明るくなる、私の視界。
次第に煩くなる、消えない耳鳴りのような、貴族達の歓声。
私は、内心耳を塞いだ。何も聞こえないように。
本当は、嫌だ。売られるなら、私は誰に避けられようと、罵られようと、どうだっていい。私は、牢屋に残っただろう。
暗くて、冷たいとあの場所に。
「おい、遅かったじゃないか!」
「あれ、アルビノか?」
「値はいくらだ?私はいくらであっても買うぞ!」
色々な声が飛び交っていた。
「すまんねぇ、貴族さん。はいよ、持ってきたよ」
”連れてきた”じゃなくて、”持ってきた”なんだ。私達の扱いは。
それを聞いて、私は苛立ちを感じた。
もう、悲しいなんて、辛いだなんて思わない。
私達がモノ扱いされてるのも、気づかなかっただけで、昔からずっとーーーーーーーーーそうだったんだ。
「さあ、貴族さんよ、今日はアルビノだよー!珍しいから値もあがるよー!はい、どんどん言って!」
奴隷売りの、命の売り買いの合図が上った。
それとともに、私の値がどんと飛んできた。
「1500万はどうだ?」
「いや、わしなら3000万で買うぞ!」
「いや、それならば……!」
お金の話が飛び交う中、私は一人、目を瞑った。
見たくない、何も。
石台の上に乗る人を、何度も見てきた。
可哀想だと思ってた。でも、今は私なの。私の番なの。
私はもうーーーーーーーーー子供じゃないんだ。
耳を塞いだ。何も聞こえないように。
それでも、耳にへばりつくような貴族達の声は、消えなかった。
そんな中、男の貴族の声がした。その人が何か言うと、皆、静かになったのがわかった。
少しずつ、目を開ける。
そこには、金髪の男の貴族が立っていた。
「私が、この子を5000万で買おう」
皆、諦めたように石台から離れていく。
「ア、アルドリア一族の、お買い上げー!!」
私、買われたんだ。
帰っていく大勢の貴族達は、アルドリア一族なら諦めるしかない、と皆が皆言って去っていく。
「お代は、5000万+金貨3枚です。毎度ありー」
「ああ、そうだな。これで足りるか?」
男の人が、服から札束と金貨3枚を取り出した。
そして、私の方に手を伸ばして、降りられる?と言った。
「大丈夫です……」
売られてみると、意外とあっけなかった気がする。
私は、売られた。今日から、この人の元で、働くんだ。
私は、石台を降り、その人の側についた。
すると、男の人は細い路地に体を向けて、
「ミレイ、こっちだ!」
と叫んだ。
遠くの方に、黒いロングドレスを着た女の人が見えた。
「あ、カナリオ!もう、どこに行ったのかと思ったわ!」
その声には、聞き覚えがあった。いや、聞き覚えがあるどころじゃない、あの声は……。
「146……?」
私の声を聞いて、遠くの女の人が立ち止まった。
「145?145なの?」
私は、駆け出した。本当は、ご主人様の側にいなきゃいけない。だけど、どうか、今だけはーーーーー。
私が駆け出したのと同時に、女の人もこっちに走って来た。
近づくほどに、泣きそうになる。もう、二度と会えないと思っていた。
「145なのね!」
「146だよね?」
私達は、お互い抱き合った。
「何故、ここに?」
「私、売られたの。それで、買われたの。だから、だから……」
「誰に買われたの?」
私が買われた事を聞いて、146は、急に不安そうな顔をした。
この声を、聞くまでは。
「ミレイ。ハッピーバースデー」
そう、あの男の人の声だった。
「カナリオ……?どういうこと?」
「俺が、買ったんだ」
146の顔が、一瞬くしゃっとなった。そして、カナリオという男の人に抱きついて、ありがとう、と言って泣いた。
「おい、もうすぐ日が落ちるぞ。ミレイのバースデーパーティーが始まるのを皆待ってる。さぁ、三人で帰ろう」
146は、頷いた。そして、私の手を引っ張って、行こう、と言った。



細い路地を抜け、三人で歩いていた。
二年も会っていない、親友。たった二年だけど、私にとっては、凄く長い二年間だった。
私は、2人に、寂しかったこと、新しい友達が出来たこと…みんな話した。
146は、昔のように、真剣に私の話を聞いてくれた。そして、話が終わると、私の話もしていい?と言った。
「私ね、名前がついたの。ミレリア。愛称は、ミレイ。145も、そう呼んでね」
「もちろん」
私が返事をすると、ミレイは、思いついたように手を叩き、彼女の旦那さんの耳元で何か言った。
そして、明るい笑顔で、私の方へ顔を向けた。
「シフティ」
「え?何、それ」
「貴女の名前。今日から貴女はシフティ!」
嬉しかった。単純に、名前が出来たことに。
私は、ありがとうと言って笑った。


この日の夜、ミレイのバースデーパーティーは夜遅くまで行われた。私とミレイは、昔のように話して、笑った。
この日は、私にとって、特別な日。
でも、そんなことではしゃぐ私って、恐ろしい。
だって、390と別れた悲しみなんて、もうとっくに忘れていたのだから。