ダーク・ファンタジー小説
- Re: 命を売り買いする場所。 ( No.19 )
- 日時: 2015/07/11 20:08
- 名前: とりけらとぷす (ID: KIugb2Tf)
第7話【偽りの彼と秘密】
「レオ様!どこへいらしたのです?」
家庭教師に連れられ、勉強部屋に入れられた僕に、彼は僕を探るようにして鋭い目つきで僕を見た。
彼の名はピーター・ロベルト。この街では、有名な家庭教師だった。まだ20という若さだが、生まれながらの天才と言われていて、学問については完璧だった。
そんな優等生の彼が、僕を放っておくはずがない。
「ああ、そのことか。ちょっと用事があって…明日にしてくれないか?」
「嘘をついていますね、レオ様。貴方は実に興味深い生き物です。正義感の強い貴方に嘘はつけませんよ。顔に出てますよ」
そう言って、彼は金髪を靡かせて笑った。
僕は、何も言えず黙っていた。
頭が良いだけに、何も言い返せない。
しばらく沈黙が続いていると、彼はため息を着き、茶色のとんがり帽子を被った。
「図星…でしたか。そうですか、私は貴方に失望しましたよ、レオ様。男の癖に、何も言い返せない。嘘もつけない。これでは、この世で生き抜けませんよ。貴方は、カナリオ様の言う通りの人だ。はっきり言わせていただきましょう。貴方はバカです」
そう言って、勉強部屋を出ようとした。
そんな彼の手首を掴み、無理やり引っ張った。
「確かに、僕はバカかも知れない。だけど、僕は…何時だって真実を求める。嘘は吐きたくないし、人を騙したくもない。たとえ、それがこの世を生き抜く手段であろうとも」
そう言いながら、心が燃えるように熱くなっていくのを感じていた。
彼に、激しい憎悪を感じていた。今までにないくらい、強く。
いや、もしかしたら、彼自体ではなく、この世全体に対してなのかも知れない。彼の様なずるい人間を生み出すようなこの世に。
「ああ、そうですか。そうするなら、そうすればいいじゃないですか。じゃあ、貴方に真実を伝えて差し上げよう。私は、シフティと新人メイドがさっき逃げていくのを見ました」
僕は息を呑んだ。まさかーーーー。
「私は、4時半から貴方を探していたのですよ?いつもなら時間通りの貴方が勉強部屋に来なかったのですからね。それにしても、貴方が広間の扉にへばり付いて盗み聞きをする様子といったら、傑作でしたよ。貴方が盗み聞きをするなんてね。私はずーっと見ていたのですよ?レオ様」
彼の言葉に、息ができなくなるのを感じていた。
彼は、全てを見て居たんだ。
だとすると…僕を探していたのも、探している”フリ”だったというのか…?
僕は、いや、僕達三人は嵌められた。
全てが彼の計算済み。思い通り。
「あれ、またお黙りになるのですか?」
そう、得意げに言う彼に苛立ちを隠せず、僕はつい、彼に殴りかかってしまった。
しかし、それも彼の計算済みだったらしい。
僕の殴りかかった拳は、彼の片手で止められてしまう。
「こういうことなんですよ、レオ様」
「何なんだ!ロベルト、お前は僕に何をしたい!」
涙が喉まで来ていた。悔しくて、でもどうすることも出来ない。そんな自分が惨めで、悲しい。
ロベルトは、僕の拳を掴んだ手をゆっくり離した。
「つまり、こういう事ですよ、レオ様。貴方も、ずるい人間だ。人間は、皆ずるい生き物ですよ。貴方も、私も。いつか貴方も汚れた人間になる。嘘を吐く他にどうにも出来ない事が起こった時、貴方はきっと嘘を吐く。それが、貴方の”正義”だと信じて。でも、レオ様。それは、私のした事と同じ事ですよ。貴方自分に”正義”だと信じ込ませているだけ。そんな貴方は、私よりもっとずるい人間だ」
頬を冷たいものが流れるのがわかった。
”ずるい人間だ”その言葉が、頭から離れなかった。
正義は、悪なのだろうかーーーーーーー。
瞳から溢れる液体が、涙だと知るのに時間が掛かった。
ロベルトは、頭を下げて部屋を出て行った。