ダーク・ファンタジー小説
- Re: 命を売り買いする場所。 ( No.23 )
- 日時: 2015/06/23 16:17
- 名前: とりけらとぷす (ID: IS3fXoEU)
「ええ」
そう答えたのは、隣の390だった。
いつもと変わらぬ笑顔で彼に微笑む。
「ピエタ・ロマーノさん」
「は…?」
ピエタ・ロマーノという名を聞いて、ロベルトは目を見開いた。
まるで、”何故、お前がその名を知っているんだ”というように。
「誰なんです?その人は」
明らかにさっきは動揺していたにも関わらず、彼はもういつもの冷静な顔に戻っていた。
なぜ、ロベルトは、自分の感情を隠すんだろう。
見られてはいけない過去でもあるんだろうか。
つい数時間前、僕はロベルトに傷つけられたのに、何故か今、彼が哀れな人間に見えた。
「あら、お忘れになりましたか?自分の名前を」
「私の名は、ピーター・ロベルト。その他の誰でもないですよ」
冷酷に彼は言う。彼の瞳は、さっまで綺麗な空色だったのに、今は深い海の底のようだ。
「ロベルト、君は、何を隠してるんだ?」
僕は思わず、咄嗟に言ってしまった。
聞いてはいけない、そうわかっていたのに。
やはり、嘘を吐いて生きていくのは、ダメだと思った。それ以上に、彼が辛そうに見えた。
また、僕の自己満足の正義がいきり立ってしまう。
でも、どうにもできなかった。
僕は、悲しんでいる人は、慰めて、少しでも楽になったら、と思う。
貧しい人には、食べ物や、生活に必要なものを与えて、僕達のように、生きられたら、と。
単純だと思うし、ロベルトの言ったように、馬鹿なのかも知れない。
でもーーーーーーーーー例え、それが僕を傷つけた人であっても、僕の中で救いたいという気持ちは変わらない。
「レオ様は、また正義だなんだの言って人を傷つけようとしているのですか?まあ、私は答えませんがね」
人を、傷つける…僕の、正義で。
この言葉が胸に刺さって抜けなかった。
苦しい。辛い。心が痛い。
だけど、もし、ロベルトもこんな思いをしているのなら…どれだけ、どれだけ辛いだろう。
「謝ってください」
ぼそりと、そんな声が聞こえた。
隣を見ると、390が、拳をぎゅっと握りしめていた。
「謝ってください!レオ様に!」
彼女の満月の様な瞳が、オレンジ色になっていた。
今にも涙が溢れそうなのを見て、驚く以外、他になかった。
「390……?」
「レオ様は黙ってて下さい!」
急に彼女が怒鳴ったので、びっくりして階段から落ちそうになる。
「謝って下さい。いや、謝らないんですか?」
「……」
正直、彼女の勇気に圧倒された。
ロベルトは、黙ったまま、僕達を見ていた。