ダーク・ファンタジー小説
- Re: 命を売り買いする場所。 ( No.29 )
- 日時: 2015/07/11 20:50
- 名前: とりけらとぷす (ID: 9uo1fVuE)
第8話【彼女との日々(2)】
あれから、夜中に帰ってきた僕達は、父親にこっ酷く叱られた。
「今、何時だと思っているんだ!食事もせずに、貴族総会にも出ずに、お前は本当に、役立たずだな、レオ」
「ごめんなさい」
僕はそれだけ言って、390を引っ張って部屋に入った。
「なぁ、390。名前のことなんだが…」
僕が言うと、390は申し訳無さそうに言った。
「もう、そんなことはいいんですよ」
「サクラ」
「へ?」
僕が言ったのを聞いて、390は、きょとんとした顔を見せた。
これは、僕の正義なのか、よくわからないけど。名前がなくて、いつまでも彼女を奴隷番号で呼ぶのは、嫌だった。
サクラーーーーーーーー前に、図鑑で見たことがある。父親の書斎に勝手に入り込んで、草木の本を見た時に、偶然見つけた、薄ピンク色の、木に咲く花。
その花言葉は、”精神の美””優雅な女性”。正しく、彼女にぴったりだと思った。
「君の名前だ」
しばらくきょとんとしていた彼女の顔が、笑顔で彩られていく。
「サクラ…?レ、レオ様が、私に名前を…?」
「ああ。サクラっていうのは、花の名前で…。君の髪の毛の色にそっくりなんだ。日本っていう国に、咲いているらしい」
「私の、髪の、色…?」
彼女は、自分の髪の毛を見ながら、少し、悲しそうな顔をした。
「私の髪の毛って…変ですよね。人間じゃないみたいです」
そんなことをぼそりと呟いた彼女に、正直驚いた。
ピンク色の髪、黄色い目。確かに、こんな人間はいない。だけど、誰しもが、人間らしくないと、人間として生きられない訳じゃない。彼女は、人間として生まれてきたのだから。
「君は人間だよ。それに、その髪の色は、他の人と違っていて、綺麗だと思う」
僕がこう言うと、彼女は顔を赤らめて、長い髪の毛で顔を隠すようにしてしまった。そして、後々から、か細い声が耳に伝わってきた。
「レオ様に、そんな事を言わせてしまって…申し訳ないです…」
僕は、彼女が何故赤面しているのかもわからなかったし、曖昧に返事を返した。
すると、いきなり彼女が頭を上げて、僕の顔の前まで近づいてきたので、驚いて腰が抜けそうになった。
「あの、近い」
「ありがとうございます」
彼女の瞳に、僕が映る。彼女はこう言って、いつものように笑った。
そして、あ、私仕事があったんだ、と思い出した様に言って、頭を下げて部屋を出て行った。
顔が、熱い。じりじりと燃える、夏の日差しを浴びたように。
鏡を見ると、赤面した僕の顔が映っていた。それは、何度顔を洗っても取れる気配はない。
「何なんだ…これ」
洗っても洗っても取れない赤さに、病気にでもなったのかと思う。熱いだけで、特に熱でも風邪でも無い様だ。
疑問に思いながら、時計の針が0時を指しているのを見て、就寝した。