ダーク・ファンタジー小説

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.3 )
日時: 2015/04/08 10:05
名前: とりけらとぷす (ID: v5g8uTVS)


歯をくいしばって、言葉に出来ない何かに耐えていると、母親が僕の前を通り過ぎた。
母親は、僕の顔を見て、驚いたように言った。
「レオ、貴方、こんなところでどうしたの?父上と一緒のはずでしょう?」
「母上は、奴隷のことをどう思われる?母上、貴女は昔、奴隷だったんだろ?」
そう、僕の母親は、元奴隷だった。
父親が、母親(奴隷)に恋をして、何とか過去を隠して、これまでやってきたと、父親が僕に話した事がある。
それは、この街の掟第1号を破ることだった。
”貴族は貴族、奴隷は奴隷と、同じ身分同士のみの結婚を認める。”
これが、掟の第1号だ。
この街では、掟破りの者は、窃盗、人殺し、何に対しても、”死刑”が下される。
そう、僕の父親と母親は、死ぬはずだった。
きっと、父親は、王族に仕える秘書にあたる身分だから、王族に頼み込んで、母親の過去の履歴を消したのだろう。
この世界は、このようなものだ。
上のものが、勝つ。権力が全てであり、下克上は出来ない。
奴隷達は、金も、権力もない。持っているのは、自分自身と、一枚の布だけ。
「レオ、貴方、なんてこと言うの!」
頬がじんわりと熱くなる。
いつも優しくて、穏やかだった母親の表情が、歪んだ。
何度も、僕を打った手を見て、摩っている。
「ごめんなさい。そんなことするつもりじゃなかったんだけどね」
僕は、母親に打たれた事なんて、どうでも良かった。
早く、母親の答えを聞きたいというただ一心で。
「母上、答えてください。貴女は、石台の上で売り買いされる奴隷達の気持ちが、嫌という程わかるんだろ?」
母親は、黙って頷いた。そして、僕を引っ張って、駆け出した。