ダーク・ファンタジー小説
- Re: 命を売り買いする場所。 ( No.33 )
- 日時: 2015/07/26 12:11
- 名前: とりけらとぷす (ID: Ze3yk/Ei)
第9話【Witch hunting】
明日の夜、僕は約束通りに灯台へ来た。だが、灯台の最上階は真っ暗で、人の気配はしない。ロベルトは、約束の事を忘れてしまったのだろうか。いや、そんなはずはない。彼は優秀で、どんなハードなスケジュールでも、必ず時間通りに来た。彼が、約束を忘れるはずがない。
時計の針は、もう8時を回っていた。”夜”という言葉だけで、ざっくりと約束するんじゃなかったと、今更ながら後悔した。
夜は長い。街は、再び闇に包まれていた。
灯台の窓から街の方を覗くと、真っ暗な闇の中に、ちらちらとオレンジ色の光が動いている。
ーーーーーーーー夜警だ。
よく見ると、1、2人いる。いや、3人、4人…。夜警の数は、小さいものまで数えると、15人ほどいた。
おかしい。これまでは、ここの見回りは1人だけだったはずだ。
何か、事件でも起こったのだろうか。
そんな事を一人考えていると、下から階段を上ってくる音が聞こえた。
カツン…カツン…と、まるでハイヒールを履いたような音がしている。これは、ロベルトじゃない。
僕は、念の為一番奥の部屋に入った。クローゼットを開け、服を掻き分けて奥に隠れる。
カツン…カツン…という音は、次第に大きくなってきた。だんだん、誰かが近づいている。そして、その音は、今までで一番近くで音を止めた。どうやら、最上階に着いたらしい。
その音は、灯台の灯を一周したような音を立てて、また、止まった。
こっちに近づいてくる。ギギギ…と、ドアノブに手を掛けた音が聞こえた。
心臓が、早く動いて、今にも飛び出しそうなくらいに大きく音を出していた。胸に手を当てていなくても、それは感じ取れる。今、もはや血が張り巡らされていることがわかるくらいに、緊張していた。
カツン…カツン…と音を立てて、辺りを散策しているらしい。部屋のあちらこちらを歩いた後、運悪くクローゼットの前で止まった。
ーーーーーーーー気付かれたか?
まだ、敵と決まったわけでないのに、敵だと思い込んでいる自分が、何だか可笑しかった。だけど、今はそれどころじゃない。身体は、熱が出たように熱いし、心臓は、さっきより速度を増して、大きく動いている。拳を硬く握っていたせいか、手が汗ばんでいた。
「そこに、誰かいるのですか?」
気付かれた。 僕は、目を見開いて、少し震えていた。
女の子の声だった。特に強くもなく、弱くもなく。ただ、冷静な感じがした。
別に、僕は貴族だし、見つかったところでギロチンにかけられるとか、そんな事は、まず無いだろう。なのに僕の頭は、見つかったことでいっぱいだった。
「誰かいるのですか…?」
また、声が聞こえて、クローゼットが僅かに開いた。
「おかしいなぁ…誰かいると思ったのに…。ってきゃああっ!?足!足が…!」
”足”とは、僕の足のことだろうか。緊張していた僕が驚いた。びっくりして、腰が抜けてしまった。
僕は、相手が女の子で、足にびっくりするくらいだから、何だか可笑しくて、さっきの緊張感は消えてしまっていた。
すっかり安心した僕は、クローゼットから這い出た。
「お邪魔してるよ」
「ぎゃああああっ」
「そんなに驚かないでくれよ。僕は人間だ」
女の子は、怯えた目つきで僕を睨んだ。辺りを見回してみると、可愛らしいユニコーンの小物など、女の子らしい可愛い小物がたくさんあった。どうやらこの部屋は、この子の部屋らしい。
金髪の肩くらいまでの髪の毛から、茶色の瞳が僕を見ている。
「貴族のお方が、アイルのお部屋で何してるですか…?」
「アイル?ああ、君の名前か。すまない。勝手に君の部屋に入ってしまって」
「…別に、いいです。早く、アイルのお部屋から出て行ってくれです」
「すまない。お邪魔しました」
変な敬語だな、と思いながらも、アイルの部屋を後にした。
「何処にいらっしゃったのですか、レオ様。探しましたよ、本当」
部屋の前には、ロベルトが立っていた。
「すまない。というか、ロベルトがここにいなかったから」
「ああ、それはすみませんでした。ちょっと、調査をしていまして。それが、予想以上に長引いてしまったんですよ。それにしても…」
ロベルトが、急に笑い出したので、首を傾げていると、またいつものようににやにやと笑みを浮かべて話し出した。
「ま、さ、か、の。私の妹に手を出そうとは!レオ様、あのプレタリアの子だけでは足りないと言うのですか?それなら、私が用意して差し上げるのに。それにしても、思春期の男の子は怖いですねー。欲張りすぎてシャレになりませんよ、本当」
このまま黙っていると、ロベルトに話を持っていかれそうだったから、わざと大きな声でその口を塞いだ。
「それはそうと、”話”とはなんだったんだ?」
僕は、アイルを狙ってなんかいないし、さっき初めてあったところだ。それに僕は歓迎されず、そそくさと追い返されてしまった。まぁ、これは当然の結果だが。別にそんな事で落ち込んでいるわけもなければ、特に何も思っていないのが現状だ。それに、アイルという女の子にとっては、勝手に部屋に上がられた挙句、クローゼットの中から男の子が出てきたことにひどく驚いていた。どれだけ迷惑だっただろうと、今更ながら考える。
そして、ロベルトに妹がいた事に驚いていた。
「ああ、そうでしたね」
さっきまで僕をからかってにやついていた顔を変えて、冷静な、鋭い目つきに変わった。
やはり、それだけ大事なことなのだろうか。
「では…話しますねーーーー。こちらの部屋へ」