ダーク・ファンタジー小説
- Re: 命を売り買いする場所。 ( No.47 )
- 日時: 2015/08/22 14:40
- 名前: とりけらとぷす (ID: SGjK60el)
第12話【始まりの鐘が鳴る】
廊下を歩いていると、向かい側にロベルトの姿が見えた。
ロベルトも僕の姿に気付いたようで、こちらに歩いてきた。
「レオ様、準備は整いましたか?」
「まあ…。ロベルトの方はどうなんだ?」
僕が聞くと、ロベルトは自慢げに腕を組んで、もちろんです、と言った。
「では、始めましょうか」
「ああ」
僕らは移動して、いつもの勉強部屋で話をすることになった。
勉強部屋に着いてから、ロベルトは僕に報酬を伝えるように言ってきたので、僕は話すことにした。
もちろん、そんな大きな報酬もなく、自分の不甲斐なさに気が滅入りながら話し出したのだが。
「僕は、約束通り父上に話した」
「え。本当に話したんですか?…冗談かと思っていました」
「馬鹿にするなよ。本当に話したんだから。まあ、父上は何も言ってこなかったけどな。僕は何故か海へ連れて行かれて、海を長いこと眺めてた。そしたら父上は、『海の向こうに答えはある』なんて訳のわからないことを呟いて、帰って行った。だから、皆を助ける方法は…残念ながら相談も出来なかった」
ロベルトは、相槌を打ちながら聞いていた。
そして、僕の話を聞き終えると、何やら鞄から分厚いノートを取り出して、机の上に広げた。
見ると、それは住民票らしい。そこには名前や住所や、性別や性格などが細かく書かれていた。
でも、どれも手書きなのを見て、これは住民票ではない事に気付いた。
普通、住民票なんかに性格なんて書かないだろうということも含めてだ。
「これって…」
「私の手書きの住民票のようなものです」
ロベルトは、次々とページをめくっていった。
どのページにも、詳しく書かれた個人情報が隙間なく載っている。
「これが、私の集めた仲間です」
200ページくらいはありそうなノートを最後までめくり終えた時、ロベルトは満面の笑みで僕を見た。
やっぱり、ロベルトは凄い。”凄い”という言葉では足りないくらい、もはや尊敬の域に達していた。
僕は、3日間でこれだけの人をロベルト一人で集めたのかと思うと、思わず息を呑んだ。
「合計1864人です。もう、3日間寝られませんでしたよ」
今までは帽子の陰で見えなかったけど、そう言ってロベルトが帽子を脱いだときには、はっきりわかった。
ロベルトの目の下は、小さな隈が出来ていた。
目の下が少し青紫色になってしまっている。
僕は、今更ながら、こんな無茶な事を頼んでしまって申し訳ないと思った。
ロベルトはきっと、死に物狂いで人集めをしてたんだ。
それに比べて、僕は…。
「そんな、浮かない顔しないでくださいよ。レオ様だって、有力情報得たじゃないですか」
「そんな…僕は何も…」
「レオ様、海へ向かいましょうか」
ロベルトは立ち上がった。
「え?何で」
「だって、海の向こうに答えはあるんでしょう?」
不思議がる僕はロベルトに手を引かれて立ち上がらされた。
「さぁ、行きましょう。日が暮れる前に」
そんな事を言いながら、もう日は暮れかけてしまっている。
ドアの隙間から、オレンジ色の光が差し込んでいた。
協会の鐘の音がガランガランと妙に煩く聞こえた。