ダーク・ファンタジー小説

Re: 命を売り買いする場所。【オリキャラ募集中!】 ( No.5 )
日時: 2015/04/11 18:42
名前: とりけらとぷす (ID: 7ZQQ1CTj)

僕は、駆け出した。無我夢中で走って、屋敷を出て、石台のある、街の広場に急いだ。
細い路地を抜け、路地の隙間から、広場が見えた。
近づくほどに、歓声が大きく耳にまとわり付くのを不快に思いながら、広場に出た。
広場では、まだ石台に何人もの奴隷たちが売られている。
あの人達は、人間なんだ。生きてるんだ。
石台に集っている貴族たちを押しのけて、石台の上に立つ。
周りを見回すと、人混みの中に父親の姿があった。
「ありゃ、綺麗な奴隷だな。どっから出てきた?」
「違うぜ、ありゃ、アルドリア一族のレオでねぇか」
周りが、騒つく。僕に注目している。
”今だ”そう思った。
あの人達に、正しい事を教えるんだ。こんなの、間違ってるって。
だって、この人達は、生きてるんだ。
人形でも、ロボットでもない。生き物なんだ。
「皆、聞いてくれ!」
新しい時代の幕開けだ。僕が、こんな世の中、変えてやる。
この街が変わってゆく期待を胸にして、話そうとした時だった。誰かが、僕を押さえつけた。
「何をする!・・・父上・・・」
僕の後ろには、父親が立っていた。
「どうして・・・どうして?どうしてなんだ!何で邪魔するんだ!父上!」
「アルドリアの恥だ。こっちへ来い」
抵抗したが、父親の力には、10歳の僕では到底敵わなかった。
途中で執事達が来て、僕を屋敷に連行した。




「父上!何故このような真似を・・・!」
「お前が馬鹿な事するからだ。奴隷選びもしない。石台などに乗る。お前は、アルドリアに恥をかかせるつもりか!」
珍しく、父親が怒っている。顔を真っ赤にして、腕を組んで、しかめっ面をしている。
「まあ、レオがそんなことまでするとなると、何か、言いたい事があったのであろう。父に話したまえ」
そう言って、父親は大きなソファに腰を下ろした。
こんな奴に言っても、何もならないだろう。
だけどその時、そんなことまで頭が回っていなかった僕は、父親に言ってしまった。
「父上、奴隷は、人間なんだ。僕達と同じ。売り買いなんて、おかしいよ。僕は、止めさせたい。だから今日、石台に乗って」
「お前は、やっぱり馬鹿だな」
僕が話している途中なのに、父親は話し始めた。
「レオ、よく聞け。いいか、忘れるな。もし、奴隷が解放されたとしよう。奴隷達は、どうする?布一枚しか持ってないんだぞ?一文無しだから、食料にありつけやしないさ。あいつらは、貴族である私達に買われて、生きてけるんだ。奴隷売りもそう。奴隷が解放されたら、職業を失う。誰に、どんな得があってそんな事を言ってるんだ?レオ。お前は馬鹿だ。そもそもだか、お前にそんな、皆を動かせる権力なぞ無かろう。まだ子供なのに、大人の世界に口出しするんじゃない、いいな」
そう言って、ソファから立ち上がり、僕の部屋を出ようとした。
僕は、部屋を出ようとする父親の手首を強く握った。
「皆、そう言うんだ。母上だって・・・だけど、間違ってる!絶対に、それは間違ってるんだ!」
父親は、僕の手を振り払い、鼻で笑った。
「誰がそれを間違いだって決めたんだ?」
父親は、部屋から出て行った。
奴隷を売り物とするのは、間違ってる。間違ってるはずなのに、父親の言葉に少し納得してしまっている僕がいた。
奴隷は一文無しだから、解放されても飢え死にするだけ。確かにそうだと思った。そうすると、母親の話と繋がってくる。
誰が得になる・・・?僕だけじゃないか。僕の身勝手な正義感で、皆の生活を壊してしまうんだ。それを、誇らしく思うんだ。何も知らない馬鹿な僕は。
そもそも、僕の言葉に耳を傾ける大人など、いないだろう。
全てが、僕の計算ミスだ。
誰も幸せになんかならない。誰も僕がしようとしていることを望んでない。僕には、救えない。
「僕には、誰も救えない・・・救えないんだ!」
座っていたソファの背もたれにすがりついて、僕は日が暮れるまで泣いた。