ダーク・ファンタジー小説

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.50 )
日時: 2015/08/22 14:30
名前: とりけらとぷす (ID: SGjK60el)

【参照500突破記念番外編】

#0-0【プレタリアの街】



私は母と父と弟、それから祖母と一緒にこの街に住んでいる。
この街に住む人々は、皆髪がピンク色で、目は黄色だ。
周りの集落からは、この街はプレタリア=神の街と言われている。
それは、私達の容姿が他の人と違って、神様の使いみたいだかららしい。
確かに、この街は綺麗だ。
山に囲まれたこの街は、綺麗な川が流れている。
春には色とりどりの花があって、これもまた綺麗だし、季節によって果物がなる。
確かに、ここはまさにユートピアだ。
人々が神の街と言うのもよくわかる。
この街は、美しい。この街は最後の最後まで美しかった。





ーーーーーーーーーこれは、この街が焼け野原になってしまうまでの私と家族の物語。




今日はいつもより風が冷たくて、心地よかった。
母は、バケツを二つも持って水汲みに行こうとしていたのを、私はいつものように手伝おうと思ったのだ。
「お母さん、待って!私も行く!」
「あら、今日も手伝ってくれるの?じゃあ、お願いしようかしら」
そう言って母は、私に小さいほうのバケツを持たせた。
母も私と同じピンク色の髪で、腰くらいまでの長い髪を一つに束ねている。
私よりずっと背が高くて、強くて……私は、昔から母のようになりたいと思っていた。
草原を抜けると、いよいよ川が見えてきた。
周りには、色とりどりの花が咲いている。
その中でも、最も私の注意を引きつけたのが、黄色いあの花だった。
「お母さん、この花、なんだっけ?ほら、お母さんがいつも春が来た時に咲く花だって言ってたの」
「ああ、たんぽぽね」
母は、微笑みを浮かべながら、春の知らせを一つに手に取った。
「たんぽぽ!そう、たんぽぽ!」
はしゃぐ私を見て、母はまたにこりとして、たんぽぽを私の髪につけてくれた。
この街で最初にたんぽぽを見つけたのは、私と母だけだと思うと、嬉しくて仕方がなかった。
たんぽぽーーーーそれは、この街では春の訪れを表す花。
今日、風が少し冷たいのも、冬の終わりを指しているのだろう。
そう、長い長い冬が終わったのだ。
雪解け水が山から降りてきて、川の水を一層冷たくさせる。
花を潰さないように慎重に歩きながら、もうすぐそこにある川に辿り着いた。
不恰好ながら、地べたに座り込んで、川を覗き込んだ。
魚はいない。水草も生えていない。
そこにあったものーーーーそれは、透き通った水だった。
地面を悠々と穏やかに流れる美しい川。
太陽の光が反射してきらきらと光り、空と私を映し出している。
「何見てるの?」
水の鏡に母の顔が写り込んだ。
「そう、自分を見てたのね。何が不思議なのかしら」
「私…こんな顔してたんだなぁって。ほら、冬になると、川が凍ってしまって自分の顔、見れなくなるでしょ?」
母は、変な子ねぇ、と言って笑った。
そして、大きなバケツに透き通る水をめいいっぱい入れたのを見て、私はここに来た理由を思い出したのだ。
そうだ。私、水汲みの手伝いに来たんだった。
私は、後ろに置かれているバケツに手を伸ばした。
そして、川に前のめりになって水をすうっとすくってみる。
透明な水の中には、私がいた。
ゆらゆらと揺れて、ちゃんと見ることは出来ないけれど、やはりそこには私がいる。
「ねぇ、お母さん。どうして水の中に私がいるんだろう」
帰り道、小さなバケツを手に、私は母に尋ねた。
「そうねぇ…」
そう言って母は、考えるような仕草をした。
私は、答えを知っている時、母がいつもこの仕草をすることを知っていた。
母の中で、答えはもうとっくに出ているのだ。
だけど、私はいつもそれに気づかないフリをする。
それが、子供の私なりに出来ることだから。
「水の中には、私達と同じようで、違う世界があるんじゃないかしら」
「アナザーワールドのこと?」
母の答えがあまりにも意外だったので、私はキョトンとして言った。
「そうよ」
昔、祖母に聞いたことがある。
世界は、一つじゃなくて二つあるって。
一つは、私達の生きる世界。もう一つは、私達と反対の世界。
祖母は昔の人だから、きっと、昔の言い伝えか何かだと思っていたけれど、母までそう思っていたなんて、何だか信じられなかった。




協会の鐘の音が聞こえた。
外を見ると、もう真っ暗だ。
私は階段駆け下り、食卓へ向かった。
「サイ。もうご飯できたわよ」
食卓にはたんぽぽ料理と魚の煮付けが出されていた。
サイとは、私の名前だ。
祖母がソフィア、母がサファ。そして、何故か私はサイなのだ。
皆からはサイって男みたいとからかわれたりするので、この名前はあまり好きではない。
食卓には、もう弟も来ていた。彼の名は、シータ。
彼は何故か、この街で唯一の白髪だ。
食卓を囲んでいるときには、とても目立つ。
私はシータの隣の席に座って、皆でコップ同士をカチャンと鳴らし、食べ始めた。
これは、この街の習慣なのだ。
他の街の者は、いつも乾杯をしているだとか、マナーとしてはいけないだとか言うけれど、私はこれを気に入っている。
四人のコップがカチャンと鳴った時、幸せだなぁとふと思うのだ。
父はもうずっと前に病気で死んでしまったけど、四人でもちゃんと生きていける。
これは、そんな気持ちに私をさせるのだ。
「サイ、シータ。もっとゆっくり食べなさい」
スープを勢いよく飲んでいる私とシータを見て、母は注意した。
私はシータと顔を見合わせて、特に意味もなく笑った。
「サイとシータは食べ盛りだねぇ。どんな大人になるのか楽しみじゃ」
ほっほっほっと祖母はいつものように可笑しな笑い方をしたので、私は思わず吹いてしまった。