ダーク・ファンタジー小説

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.78 )
日時: 2016/03/10 15:09
名前: とりけらとぷす (ID: DVcR0E4k)

お久しぶりです。気付けば一ヶ月……寒くなったり暖かくなったり、まだ季節の繋ぎ目ですので皆さん体調管理はしっかりしてくださいね!

それでは、長らくお待たせいたしました。本編です。


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「……あと、どれくらいだ?」

僕が聞くと、レンツェさんがまだまだですよ、と笑った。
地下道はますます暗くなって、僕達を飲み込んでしまいそうだった。長い長い暗闇。大きく口を開くようにして広がる道。明かりはおじさんが用意してくれたランプだけだ。

「やっぱり怖いんですね?そうなんですね!」

「うるさいな。怖くなんて……」

僕がムッとしてロベルトを睨んだ時、何かが僕の髪の毛をふわっと触った。

「ひぃ……っ!?」

慌てて頭をくしゃくしゃと触るが、何もいない。
ロベルトは見えない何かに驚く僕を見て本当に楽しそうな顔をしている。気持ちの悪いやつだ。

「やっぱり怖いんですね、レオ様」

と、肩にポンと手を置かれながら真面目な顔つきで言われたので、何とも言えなかった。
怖いわけじゃない。怖いわけじゃないんだけど。
昔話で聞いたことがある。王宮へ通ずる道は、時間ごとに家来が見回りをしに来るが、深夜に見回りをしに来る家来が次々と姿を消しているのだとか。
最初、王様は家来が国を捨てて逃げたのではないかと、大騒ぎになった。そして、家来を探すため、大捜索を始める。国の情報が他国へ漏れるのを防ぐためだ。しかし、いくら探しても家来は出てこなかった。その上、深夜に見回りに行った家来は次々と行方不明になる。
そのうち、五年が過ぎていった。王様は来る日も来る日も頭を悩ませ、ついに、王様自身が地下道へ深夜に行くこととなった。もちろん、家来は王の身を心配して何度も引き止めたが、王様は誰の言うことにも聞き耳を立てなかった。
そして、王様は深夜にある一人の信頼している家来とともに地下道へ向かった。
次の日、王様も、その家来の姿もなかったという。

という、昔話だ。僕の小さい頃、父親がよく読んでくれた絵本だった。今考えると、よくわからない話だ。その王様はどこへ行ったのか、家来たちはなぜ姿を消したのか。この話には、ただ家来たちと王様が消えてしまいました、とだけ書いてあるだけで、終わりがない。
その後、王国はどうなってしまったのか。
今となってはものすごく気になる話だが、今思い出したのが間違いだった。


ひたり…ひたり……


やっぱり聞こえる。僕らの足音以外にもう一人の足音が。それは、大分遠くからのようだが、確実に僕達に近づいていた。
前だ。前から来ている。
地下道は進めば進むほど、湿気が増していた。そして、床を踏めば水がじわっと溢れてくるようになっていた。

「しーっ!皆、止まってくれ……」

「どうしましたか、レオ坊ちゃん?」

「しーっ!静かに!」

僕は立ち止まった皆の前に出て、耳を澄ました。

ひたり…ひたり…

やっぱり聞こえる。

「皆、聞こえないか?」

「足音……?」

ロベルトが神妙な顔をして言った。

「聞こえるだろ?」

「はい、確かに……しかし、これはこだまのようなものではありませんか?」

そういったのはおじさんだった。

「でも、もし敵の見回りだったら……!」

「大丈夫ですよ、レオ坊ちゃん。この時間帯は見回りの家来どもはおりません」

「なぜそんなことが言える?レンツェさんは教会の牧師さんなのだろう?」

それを聞いて、レンツェさんの目が一瞬大きく見開いた。

「ああ、ええ……まあ、そうなんですが…。私は昔、地下道で働いていたのです」

「何をしていたんだ?こんな場所で。働き手は家来くらいしかいないと父上は言っていた。まさか、レンツェさんは家来だった
のか?」

「落ち着いてください!レオ様!」

興奮する僕をロベルトが止めた。
その瞬間、はっと我に返ったようにどこからこみ上げてきてのかわからない興奮は収まった。

「レンツェさん……ごめんなさい。何だか興奮してしまって」

「レオ坊ちゃん、気をお確かにお持ち下さいませ。此処は地下道ーーーーー別名、惑わせの道とも呼ばれております。この道の昔話をご存知ですか?家来が消えたのも、王様が消えたのも、この地下道に人を惑わせる何かがあるに違いないからなのです。気を確かに持つことが大切です。自分を見失わないように…。皆さんもですよ」

皆ごくりと唾を飲み込んだ。
この地下道は厄介だ。自分を見失わないようにしなければならない。さっきのようになってしまわないように。
レンツェさんはそれだけ言うと、すたすたと僕を抜かして歩いて行ってしまった。