ダーク・ファンタジー小説

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.87 )
日時: 2018/04/17 08:20
名前: とりけらとぷす (ID: mvmekIau)

お久しぶりです!とりけらとぷすです。もうかれこれ一年ほど更新してませんでした:(;゛゜'ω゜'):<これからはちょくちょく更新出来るよう頑張ります…!
そして…超亀更新ですが、物語は完成までつづきます!(`・∀・´)


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地下道を行くことさらに1時間。
出口が見える気配は一向にない。
あの不気味な足音は消えたものの、胸騒ぎが後をたたなかった。

「ロマ…ロベルトさんは、どのような方ですか」

嫌に静かだったレンツェさんが口を開く。
その突拍子のない質問に違和感を覚えながらも、

「…あぁ、ロベルトは……頭の良い人だ。僕の事を初めて心から叱ってくれた人で、何が正しいのかちゃんと見極めている。僕の父親は、駄目だとか、馬鹿だとか表面的な叱り方ばかりで、なぜ駄目なのかをあまり教えてくれなかったんだ。だから…僕が口だけの偽善者で、僕の正義は自己満足でしかない……そういうことをわからせてくれたのは、ロベルトだ。もちろん、父親が教えてくれなかったわけでもないけど……」

と話し始めると、意外とすらすら出てきた。
レンツェさんは、そうですか、と言って何だか嬉しそうだった。

「それより、何故こんなの事を聞くんだ?レンツェさんは、ロベルトが集めた人の一人だろう?」

「…そうですね」

「ロベルトとおじさんがもう1時間ほど見えない。作戦だということも、僕は聞いていないんだ。作戦なら、そうちゃんと言ってくれ」

ロベルトとおじさんの姿が見えなくなって1時間。レンツェさんは何もない様子でスタスタと歩いて行き、僕はそれに続いて歩いていた。地下道の地図はあるものの、その経路は複雑で、僕一人では到底王宮にたどり着けそうもない。また、ロベルト達を探すにあたっても、バラバラになってしまって迷子になるのが目に見えている。ランプと地図と短剣だけ。それだけの装備で、一人になるというリスクを考えると、大人であるレンツェさんといる方が良いだろうと思ったのだ。
真剣な眼差しを向けると、レンツェさんは渋々と話し始めた。

「作戦…といえば、作戦でしょうか。だけどそれは、私だけの作戦であって、私達の作戦ではありません」

「どういうことだ…?レンツェさんが地下道をよく知っていたり、本当に牧師なのか曖昧だったのは……まさか…」

まさか、敵だからなのか。
よく考えるとおかしい。作戦会議の時一人は来なかったし、牧師が地下道をよく知っているというのも、実はおかしなことなのだ。もし王宮に仕えし牧師なら、正門から堂々と招待されるはずだ。間違っても、地下道から招かれることはない。でも、敵だというにもどうにも矛盾が生まれて、頭が痛くなった。

「レオ坊ちゃん。気を付けねばなりませんよ。私はいくつも嘘をついています。ロベルトなるものは、いくら頭が良いとはいえ、私の嘘を見破ることが出来なかったようですね」

と、どこか寂しげにレンツェさんは言った。
言葉と表情が矛盾している。それは嘘をついているからなのか、演技が下手なだけなのか、さっぱりわからなかった。
この作戦は5名で実行するはず(実際には4名)だったが、全体の参加者としては千名以上いる。ロベルトが集めた人たちだ。ただ、その中には裏切る人がいるかもしれないということ。それはロベルトも懸念していたことだが、こんなに早く現れるとは。おまけに、集めた本人は消え、おじさんは消え……。
敵だとしたら、王宮に仕える者しかあり得ない。だとしたら、レンツェさんは牧師ではないということだ。

「レンツェさん…あなたは一体…?」

「もしかして、敵なのか?」

僕があまりにも馬鹿な質問をすると、レンツェさんは呆れたように、敵は敵と言われてもそうだなんて答えませんよ、と言った。

「でも、牧師ではないんだろ?それじゃないと辻褄が合わない。牧師が地下道を通ることはない。王様に招かれたものは、正門を通ることができるはずだ」

「御名答です。もっとも、私は牧師などではありません」

「じゃあ何者なんだ?ロベルトを騙し、ここへスパイとして入り込んだ…だとしたら、王様へ仕える身でも、随分上の方だとなる」

僕がいうと、レンツェさんはハハハッと笑った。

「随分考えたようですが、残念ながらそれは違います。私は下級兵士でした。一時は王に仕える身でしたが、今はただの平民です。平民が下級兵士となり、王に仕えることがあるということは、あなたもご存知でしょう」

「下級兵士…?」

「あぁ、でももう随分昔のことです。それに、兵士になったのはほんのちょっとの期間で、私はすぐに追放されてしまいましたから」

「追放って……あなたは罰を食らわなかったのか?」

追放ーーー王様の言うことは絶対の、この世界で。それは、打ち首を意味する。
僕はまだ行ったことがないがーーー父親も、さすがに残酷すぎると思ったのだろうーーー打ち首は、公開処刑で行われる。
それぞれの親族、友人など、親しい人の最後を見届けようとする人、そして、それとは正反対に、恨み、妬んでいる人や、人の死を愉しむために観覧に来る人もいるそうだ。
奴隷の売買地と同じような雰囲気が漂っているらしい。泣き叫ぶ人、許しを乞う人、逃げ出そうと試みる人、歓声をあげる人ーーー。とにかくいろいろな感情と、声が混じっていてーーーーー考えただけで吐き気がする。
レンツェさんのブロンドの瞳がランプに照らされてオレンジ色に輝く。その悲壮に満ちた目は、何を意味しているのだろうか。