ダーク・ファンタジー小説

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.88 )
日時: 2018/05/24 08:42
名前: とりけらとぷす (ID: nyr1MBL9)

暫く沈黙が続いていた。答えは帰ってこなかった。



5つ目ほどの分岐点に差し掛かった時、レンツェさんが急に足を止めた。

「さぁ、着きましたよ。レオ坊ちゃん」

レンツェさんが不敵な笑みを浮かべて振り返った。
ーーーー嫌な予感がした。

「あなたとお話ししたいことがあったのですが、もうそろそろかと思いますのでーーー」

レンツェが靴に仕込んでいたとみえる短刀を引き抜いて僕の前にやった。

「ここらであなたのお命頂戴します」

胸倉を掴まれ、石壁に押し付けられる。老人とは思えない力だった。
敵なのかもしれないと思いながら、どこかそうじゃないと甘い考えを浮かべていた僕は油断していた。あまりにも油断しすぎた。
世の中を甘く見過ぎだとよく言われるけれど、本当にそうなのかもしれない。傷つけたくはないが、この状況では仕方がない。
腰につけていた短刀を取り出し、目を狙う。
しかし、あと少しのところで交わされてしまって、頬のあたりに擦り傷が出来たくらいだった。

「…え、レンツェさん…?」

肌色の皮膚のようなものがびろんと頬の切り口から垂れ下がった。僕が驚いた一瞬の隙をついて、今度は心臓の方に突きつけられる。

「あぁ、バレてしまいましたね」

「マスクを被っていたのか。僕らを騙したな」

「まぁ、バレてしまってはこのマスクも必要ありますまい」

そう言ってレンツェさんがマスクをとって出て来たのはーーー紛れもなく、ロベルトの顔だった。

「ロベルトっお前、まさか」

僕が言いかけた瞬間、遠くの方から『いたぞー!』『捕らえろ!』という声が聞こえてその方向を見ると、松明を持ってこちらに向かってくる十人ほどの兵士の姿が見えた。

「あぁ、残念です。時間のようだ。カナリオにお伝え下さい、お前は悪くないと」

「は?何を言って」

僕が言い終わる前に壁に打ち付けられて…隠し扉でもあったのだろうか、石壁の向こう側へ落ちて行った。僕は未だ嘗て経験したことのない無重力の感覚に、気を失ってしまった。