ダーク・ファンタジー小説

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.89 )
日時: 2018/06/08 09:00
名前: とりけらとぷす (ID: nA9aoCfQ)

第18話【王様の秘密】


「やあ、目が覚めたかい?」

まだおぼつかない意識の中声の方へ目を向けると、僕と同じ歳くらいの真っ白な少年がいた。
身体中が痛い。きっと落とされた時にぶつけでもしたのだろう。
ここは?と聞く前に、白い少年が言った。

「僕を殺しに来たのかい?」

「え?」

「じゃあ、僕の身体の一部が欲しくて来たとか」

僕は首を振った。この少年が何を言っているのか、僕にはさっぱりだった。

「なぁんだ、じゃあ、この短刀は何?まさか護身用?」

少年が短刀の入った黒革のホルダーをぶらぶらと縁を描くように振り回した。
その時、ふと気付く。その少年に、片腕がない事に。
少年は僕の視線に気づいたのか、あぁ、これ?と自分を嘲笑うかのように言った。

「ちょうど7歳の時だったかな…切られたんだ」

「どうして…」

「見てわかる通り、僕がアルビノとして生まれて来たからだよ。この国ではアルビノは高価格で買い取られる…だけど、他国では違う。アルビノは神の子だとか、その身体の一部を手に入れたら幸せになるとか言われてるんだ。でも、奴隷としては全く売れなくてね、とても低い値段で売買されているし、好き好んで買う奴なんかいない。じゃあ、アルビノがなぜこの国の中では高価格だかわかる?人々に物珍しさ故に高く取引されてる。アルビノを美しいとみなす感覚を、国家が植え付けてるから。まあ、売れるかどうかは奴隷売りの腕次第だから、場合によっては安く手に入ることもあるだろうけどね」

「でも、腕を切られるなんて」

「あぁ、もちろんこの国の者にされたんじゃないよ。他国の人だ。この国では、身体の一部を手に入れたら幸せになれるなんて馬鹿な考えを生み出さないようにしてるから」

「当たり前のことだろ。アルビノだって人間だ」

僕が言うと、少年は空笑いした。

「全くその通りだよ。起き上がれる?」

少年は手を差し伸べてくれたが、僕は自力で起き上がった。
少年がソファに座る様僕に指示した。
腰を下ろして、改めて部屋の中を見渡してみると、なかなかの家具が揃っている。床も寝ていたので気づかなかったが、僕の家と同じ様に大理石でできていた。ソファの前の白いアンティーク調のテーブルには、金の縁取りが施されており、中央の部分はすかしガラスになっていて、中には宝石と思われる色とりどりの石が入っている。
少年がポットを持って来て、紅茶を入れてくれた。

「さぁ、一息ついたところで、君の名前を教えてくれるかい?」

「あぁ、そうだな…僕の名は、アルドリア・レオだ」

「アルドリアって、あのアルドリア一族の?へぇ、そんな君がなぜここに?ーーと聞きたいところだけど、僕も名乗らなくちゃね。僕の名前は……リエイル。此処ではリイって呼ばれてるから、君もそう呼んで」

紅茶を一口飲んでから、リイはところでさ、と話を始めた。

「王の秘書の子息が、どうしてこんなところに?」

「………」

「答える気はないんだね……じゃあ、言わせてもらうけど。君、国を何とかしようと企んでいるそうじゃないか」

「何のことだ」

「とぼけても無駄だよ。王宮の人達はみんな知ってる」

「君も王宮に使える一族なのか…?」

「あぁ、まぁ…そんなところだね」

「みんな知ってるって…どういうことだ?この計画は誰にも」

僕がそう言いかけて、レイの頬が僅かにつり上がった。
どうやら僕は、まんまと敵の仕掛けた罠にかかってしまったらしい。

「おや、気付いてしまったかい?でも、これで確信したよ」

僕が身構えていると、レイは優しく笑った。

「そんな顔しないでおくれよ。僕は君の敵ではないのだからーーー」

ーーー味方でも、ないけどね。
レイはそう付け加えた。

「君の本心を確かめたかっただけなんだ。まぁーーー僕だったから良かったけど、君は、もうちょっと慎重にやった方がいいよ。国家を動かすつもりなら、なおさらだ」

レイは紅茶を飲み終えると、もっとはなしたいことがあるから、とギャラリーへ手招きした。