ダーク・ファンタジー小説

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.92 )
日時: 2018/09/05 22:10
名前: とりけらとぷす (ID: z0poZTP7)


第19話【空虚な王座と真実の種】


思い蓋のようなものを押すと、光ある場所へ出た。白いカーテンに、様々な足が見える。運の悪いことに、会議中の長テーブルの下に出てしまったらしかった。


「さて、本題へ入りましょうか」

「こんな早くに緊急会議とは何事ですかな。わしゃ眠くてたまらん」

「まあまあ、国家の一大事です。ゴホン。何やら国家の安泰を壊そうと企んでいる輩がいるようで…」

「アルドリア一族の一人息子。名はーーーアルドリア・レオ」


ーーーえ?
僕の心臓はこれまでにないほどバクバクと音を立てていた。まるで、心臓のポンプが無理やり血液を押し出すように。


「ハッハッハッ、アルドリア一族の息子とは。カナリア様もとんだ恥をかかされたものだ」

「まぁ、何かあれば打ち首か絞首刑にすればよかろう」

「そうだな。そんな小僧一人に我らが動くまでもなかろう。放っておきたまえよ。いざとなれば、手段はいくらでもある」


「さあ、今は亡き王に、我らの自由奔放な国家に祝杯をあげようじゃないか!」


グラスが動く音がしたから、きっと乾杯でもしたに違いない。
どうやら、会話内容から察するに、国家の幹部か何かには違いないが、一つ、気になる点がある。
それは、彼らが「今は亡き王」「我らの自由奔放な国家」と言ったことだった。
ここが会議室なら、昔一度来たことがあるところかもしれない。2歳か3歳くらいの事だからよく覚えてはいないが、窓ガラスのあたりに王座があったはずだ。立派な、黄金の椅子が。
僕は気づかれないよう最新の注意を払いながら、床を這って光の一番当たっている所へ向かった。
会議の長机は幅が広いから、誰かが足を伸ばしたりしない限り容易に移動できる。


「それで、戦争の件はどうなったのかね」

戦争…確か魔女狩りが始まるとロベルトから聞いた時、そんな事を言っていたような。

「他国が攻めてくるというのはデマだよ。分かっているものを」

デマ?どういうことだ?

「ハハハ、そうだったそうだった。では、例の件の事かね」

「ああ、そうさ。例の件だよ」

「順調か?」

「ああ、全く計画通りだよ。ピエタ君、結果報告をしたまえ」

「ははっ、現状を述べますと、青目は現在562人、アルビノは14人、プレタリアはまだ見つかっておりません」

その声に聞き覚えがあったが、ピエタなんて聞いたこともなかった。きっと声の似ている人なのだろう。
例の件とは、あの島のことだろうか。何故か青い目、アルビノ、プレタリアの女性を集めているという、前代未聞の魔女狩り。そして、その人達はある島へ集められ、しかも、何故か殺されていないという…。

「結構。それでは、実験結果は」

「細胞の取り出しには成功した様ですが…現実的にはまだまだ……」

「そうか…後何年かかる」

「最低でも10年は…」

「何?それでは遅い!!」

この中で一番偉いと思われる人がダンっと机を突いて立ち上がった。

「15の齢になればカナリア様の息子であるレオ様が王宮に使えることになる…それまでに完成せねばいかんのだ!完成すれば我が国は繁栄すること間違いなし、作り上げた人間ならば、問題となっている奴隷問題にも対処できよう!この実験が完成して初めて、我が国は安定を取り戻し、誰もが身分秩序を気にかけることなく生活することができるのだ!」

内容から判断するに、作り上げた人間を奴隷として売ることで、生身の人間を売らなくて済むということらしい。
でも、作り上げた人間って…?それが、あの島で行われていることなのか。
この大臣と思わしき人が平等な世を作ろうとしているのは確かだが…何だか、僕の考えとは違うような気がした。

「そうです!そうして四民平等を実現することができれば、ルドルフ大臣の王座は間違いなしでございます!」

「とにかく…後5年だ。後5年…いや、その前にカナリオ様に気づかれては…。いや、もう勘付かれているかもしれない。なるべく早く…事を進めてくれ」

「はい…それでは…」

ピエタという男は下がったらしい。部屋から出て行った。

「さぁ、ピエタも出て行った事だし、本当の本題に入ろうではないか」

拍手喝采が起き、急に雰囲気が変わった。その異様な雰囲気に僕は思わず足を止めた。

「ルドルフ大臣が王座に着くとなりますと、問題はやはり、カナリオ様でございますな」

「ええ。庶民どもは王様の顔を知りますまい。しかも、まだ王様が存命だと思っておるわい」

「ならば、カナリオ様をどうにかする必要がありますな」

「それなら、丁度いいのがココへ入り込んだらしいじゃないか。レオ様がまだ此処にいるらしいからな。他の二人は捕まえたが」

二人が捕まった…?

「それをダシにすれば、カナリオ様の左遷は確定かと」

「いいや、それじゃ足りん。もっと大きな問題を起こさせて…濡れ衣をかぶせるのだ。それが王族直下の家臣のした事となれば、首はもう無い」

ガハハハっとルドルフ大臣は大笑いして、こう続けた。

「国民の信頼と、アルドリアの名誉を失った彼奴の顔が眼に浮かぶわ」

ルドルフ大臣に連れ、周りの人達も甲高い声を上げて笑い出した。
これは…僕の父親の左遷…いや、暗殺計画なのか?
いつからそうなんだ?父上は気付いているのか?

「カナリオ様は厄介だ。何せ、奴隷を買いあさっているからな」

「それはいいんじゃ無いですか?」

「いや、良くない。それは、一族の名誉のためでもなんでもなく、彼自身のためだからだ」

「と言いますと?」

「カナリオ様は、昔大きな罪を犯されている。それで救えなかった者たちを自分の金で買う事で救っているおつもりなのだよ」

罪を…?僕の父親が…?いや、まさか。そんな事、聞いたこともない。そんなこと、一度だって…。
それに、救えなかった者たちって…?一体、何がどうなってるんだ。

「それでは駄目なのだ。それでは、国家の繁栄は望めん。王族直下のものが払った金で王国を運営していてどうする。これじゃまるで利益がないじゃないか」

「そこで、ルドルフ大臣が他国へ奴隷を売る計画を思いついたわけですな」

「そう、しかも、これが成功すれば莫大な利益が望めるぞ。…研究費もそれなりにかかっているが…」

「そんなもの、完成して仕舞えば馬鹿にならんよ」

「そうだ。完成すれば、完成しさえすれば…我らは架空の四民平等を元に国民を自由に扱えよう。ただでさえ独裁国家を刷り込んで置いたのだ。そんなもの、いとも簡単さ」

「しかし…アルドリアが国家へ払ってきたものは莫大な額でございます。それをなくしてしまって宜しいのでしょうか…」

「良いだろう。消すのはカナリオ様のみだ。その際ギロチン台の前で命乞いの代わりに全財産を国家へ寄付する事を制約させれば良い」

「ルドルフ大臣、素晴らしゅうございます!流石次期王座につく者!」

また不気味な笑い声が響いた。
僕の拳は無意識に力が入っていて、手から少し血が出ても気付かなかった。
僕は怒りに震え、自分が壊れるのを感じた。
何処からか湧いてくる憎悪感は滝のようにとどまる事なく流れ出て、僕の身体中を駆け巡って熱くした。

「えぇ、ところで、どうしてアルドリア一族はそんなに莫大な財産を持っているのでしょう?」

あまり喋っていなかった男が期限を伺うように聞いた。
ルドルフ大臣は、なんだ、そんなことも知らんのかというばかりに鼻で笑った。

「アルドリア一族は、元王族だからだよ。この国は元々ーーーーーアルドリア王国であったのだ」