ダーク・ファンタジー小説
- Re: 命を売り買いする場所。 ( No.97 )
- 日時: 2019/02/24 11:27
- 名前: とりけらとぷす (ID: rRbNISg3)
ーーー遠い昔、此処はアルドリア王国だった。王宮を中心に、西をイーストリア、東をウェストリアとしたアルドリア王国は、他国とも貿易を行う盛んな王国だった。昔から王が神格化されているのは今とは変わらないが、それでも、これほどの独裁国家ではなかったという。
ところが、王が病気がちになり政権が家臣の大臣に渡った頃、ちょうど今から100年前のこと、その家臣により魔女狩りが実行された。魔女がいると言われたプレタリアという変わった人種の住む集落が魔女集落であるとされ、襲撃された。
その直後、魔女狩りを企てた家臣は何者かによって殺され、王様も不慮の死を遂げた。
王が死んだとの知らせは国民を混乱に陥らせる可能性があったため、どこからが現れたシータという白髪の若者にその政権が渡されたというが、詳細は知らない。一説にはプレタリアの生き残りという説もあるが、詳細は不明。ただ、何らかの理由でアルドリア一族が王の側近に繰り下げられたのは確かだ。
その頃から国は閉ざされ、いわゆる鎖国状態になり、今に至る。
アルドリア王国という名は消え、名もないただの王国として20年ほどは差別のない平和な国を保ったという。
しかし、魔女狩りを企てた家臣の末裔はそのことに不満を抱いていた。そして、シータ王を暗殺し、王は生きているという設定のまま、国民に困難をきたすことなく政権をものにすることに成功。頭の回る家臣だったので、暗殺されることを恐れて皆知らんぷりをした。その中に、王の側近であったアルドリア一族も含まれたという。
その家臣は現ルドルフ大臣の祖先だそうだ。
100年前、急にアルドリアが王座から外され、見知らぬ若者が王座に着いた事例をもとに、ルドルフ大臣の祖先は前々から王座に上がる機会を伺っていた。しかし、いくら政権を動かせる地位まで上り詰めたとしても、王座から外されたはずのあるドリアの家紋はいつまでも王の間に飾られていた。それに不満を覚えたルドルフ大臣は、政権だけでなく、王座までも奪おうと決意。そして、父を暗殺し、アルドリアの地位さえも奪い取ろうとしたーーー
「それじゃあ、80年前から王様はすでにいなかったということか?」
「いや、正確にいうと、王子は生き残っていた。ルドルフ一族が政権を横取りする中、アルドリアは王族の血を残そうと努めていた。王はルドルフも知らない地下の部屋へ匿われた。お前は私が誰に仕えてきたのかと言ったな。私はまさに、王の末裔に仕えてきたのだ」
「どうして、そこまでして」
「王様が、この腐った王国を建て直す唯一の光だと、代々アルドリアが考えてきたからだ」
この腐った王国を建て直す、唯一の光ーーー。
「私はこれまで仕えてきたが、もう仕えることができない。レオよ、お前の短刀が見つかったという資料室の一番奥の本棚は隠し扉になっている。そこから木の箱へ入って下へ行くと、王の末裔の部屋へたどり着くだろう。王様のことはお前に頼んだ」
「わかった。任せてくれ。その人が、国家を建て直す鍵となるなら」
「…最後までお仕えできないのが残念だ。これも、あの罪の報復だろうか」
父親のため息交じりの独り言を、僕は逃さなかった。
「…罪って?」
「ああ、私は幼い頃、罪を犯してしまったのだーーー」
そこで僕は初めて父の過去を知ることになる。
まだ元服もしていない、ちょうど今の僕と同じ歳の頃、奴隷を解放しようとして謝って人を殺しまったこと。そして、身分の高い父は祖父によって事実を隠蔽されたが、共に計画を実行した下級貴族のピエタという人は罰せられたということだ。
「…だから、お前が生まれて、私がどう振る舞ってもその馬鹿みたいな正義感を増していくのを見て、呪いだと思ったよ。あの頃の私が仕返しをしに来たんだと」
初めて心のうちを見せた父は、威厳なんて少しも感じられない、等身大の人間に見えた。
父は、あんなことが二度と起きないように、僕を他の貴族と同化させようとして厳しくしていたに違いない。貴族の嗜みを身につけ、うまくこの残酷な世を渡れるように。
僕は父の抱えていたものの重さに胸を痛めずにはいられなかった。
今まで、どんなに辛かったことだろう。僕は、どんな仕打ちを父にして来ただろうと思うと、涙が溢れて止まらなかった。
そして、こんな時になるまで気づけなかったことを何よりも悔やんだ。
「それで、そのピエタって人は…」
そう口に出した瞬間、僕の中の幾つもの線がふと一つにまとまった。
ーーー彼の本名は、ピエタ・ロマーノ。レオ様の父上様の、親友の息子です。
「ロベルトの本名は、ピエタ・ロマーノ…?」
それに、ルドルフ大臣の言っていた島の研究を任されている人の名も、確か、ピエタだった。
そして、レンツェさんの言っていた言葉を思い出す。
ーーーカナリオにお伝えください、お前は悪くないとーーー
ということは、あの時僕があった人は、ロベルトではない…?じゃあ、一体…。
「父上、その、ピエタって人はどうなったんだ?」
「わからない。私とピエタは二度と会えなくなってしまった。ある人は階級を下げられたとか、25年の島流しになったとか、ギロチンにかけられたとか、色々だ。もう行方はわからない」
「もしかしたら、僕、王宮でその人に会ったかもしれない。その人、言ってたんだ。お前は悪くないって。そう、カナリオに伝えてくれって」
「まさか…そんなはずはない。私は王宮に出入りしていたんだぞ」
「でも、いたんだ。ルドルフ大臣達の会議の中の一人に、島の研究結果を言い渡してた。その人は父上の政界からの左遷を歌っていたけれど、ルドルフ大臣は父上を殺すと言った。きっと、陰ながらでも父上を守ろうとしていたんだよ、その人は」
「そうか…お前の聞き間違いだとしても、少しは救われた気分だ」
「僕、ロベルトの所へ行ってくる。ロベルト、言ってたんだ。父上のせいで、ロベルトの父親がって。ロベルトの本名は、ピエタ・ロマーノ。今、わかった気がする。あの時、ロベルトが言っていたことが。今聞きに行かなきゃだめなんだ」
僕は立ち上がった。父上はただ穏やかに行って来いと言った。
「レオ、今まですまなかった」
部屋を出る時、父はかすれそうな声でそう言った。僕は本当の父の声に背中を押されて駆け出した。