ダーク・ファンタジー小説

Re: 最凶男のひまつぶし ( No.2 )
日時: 2012/07/01 14:20
名前: Mr,ピーナッツ (ID: 8cTIMUus)

わけが分からなかった。
体が発光したかと思えば、すぐ光は弱まり体は普段どおりに戻った。
そして、それを最後に頭の中に声が響かなくなった。
「幻覚……?」
僕は怪しい薬を使った覚えは無いが、こうやって思い悩む内に精神を病んだんだろう。桂馬は頭を掻き毟り「クソッ!」と地面に落ちていた石を蹴った。そしてその石は、もの凄いスピードで——不良グループへと飛んでいった。
ガンッ!
鈍い音が聞こえてきた。そして不良グループの一人が鼻を押さえて悲鳴を上げている。どうやら、桂馬の蹴った石は直球に不良の鼻を捉え鼻の骨を狙ったのだろう。いや、桂馬自身はそんなつもりは全く無かったわけだが。
やはり、石が飛んできた方向からするに俺は見つかるんだろう。
「コラテメェ!!」
男子特有の低く図太い声がする。声だけ聞けば殆どおじさんだが、声を出している本人が不良とくれば、迫力も一層増すわけだ。
逃げる、という言葉が脳裏を巡った。しかし、上手い事体が動かない。ふと後ろから、気配を感じ後ろを振り向けば、ドラマに出てきそうな金属バットにメリケンサックを装備した不良達が此方を見ている。鼻を折った方の男がいる不良は5人、装備を身に着けた不良が5人。
そして、不良達はアイコンタクトを取ると、ザッと一人が動き二人が動き、あっという間に桂馬は囲まれてしまった。
四面楚歌
昔の人は何て便利な言葉を作ったんだろう、なんて事を思っていたら後ろから殴られた——





痛い……

意識を取り戻したら、目の前の不良達がぞろぞろと帰り始めた頃だった。「あーすっきりしたなぁ」「俺は鼻をやられたんだ……何なら殺しても良かったんだぜ?」なんて話し声が耳に入る。
細く目を開けながら桂馬は思い出した。そういえばこいつ等、イジメのメンバーだったな。……そうだったな。
桂馬はカッと目を見開くと、体の痛みを堪えながら立ち上がる。その目には高校生とは思えない気迫と殺気で溢れている。勿論これには、桂馬自身も驚いていた
——この妙な自身は……なんだ?
桂馬はその満ち溢れる自信に背中を押されながらも不良達を呼び止める。
「待 て」
桂馬が声を発した瞬間、不良達の足が止まる。そして桂馬の方を振り返れば、全員がニヤリと笑って喋りだす。
「懲りてねぇみてぇだなぁ!」「俺にやらせろ、イラついてんだからよっ!」
鼻の血を止血する為に詰め込んでいるティッシュさえ無ければ、もう少し気迫があったんだろうに。桂馬はそう思いながらも拳を握り締めた。正直に言うと、こういう喧嘩馴れしているコイツより先に攻撃を当てれる自信は桂馬には無かった。それでも拳が動いたのはせめてもの防衛本能だろう。桂馬は臆する事無く、相手の頬目掛けて思いっきり拳を突き出した。

次の瞬間、相手の動きが止まった。いや、スローになったと言うべきだろう。スローになった相手の拳は途端に威力とスピードが落ち、桂馬のパンチは見事炸裂した。
それどころか、周りの不良達全員がまるでスローモーションを見ているかの様に遅い。テレビでよく見る、あのスローモーションそのものだった。桂馬は、その動きに違和感より先に怒りを覚えた。
「俺を舐めるんじゃねぇぇっ!!」
近くにあった鉄パイプを手に取り、桂馬は片っ端から不良達を殴っていった。


地面にノビている不良、手に持っている鉄パイプを落とす桂馬。
こいつ等、ふざけてるんじゃなかったんだ。
桂馬は、不良達が桂馬を舐めてかかりふざけた動作をしていたんだと見ていた。しかしそうではない。
不良達はそのまま抗う事無く、こうして地面にノビているのだから。
桂馬は、ふと頭に響いた声を思いだした。桂馬はこういう非現実的な事は信じなかったが、これは能力だと思うと急に体に鳥肌が立った。
能力という言葉に嬉しさを覚えた。こんなフィクションの様な能力を手に入れた事に、何よりの喜びを覚えた。そして、唐突に最後に聞こえた声を思い出した。

『その力で足掻いてみろよ、遅男。』

遅男スロウマン……嗚呼、足掻いてやるさ」


神様、ありがとう。
俺はこの力で絶対に彼女を救いだす。