ダーク・ファンタジー小説

Re: 最凶男のひまつぶし ( No.3 )
日時: 2012/07/01 16:33
名前: Mr,ピーナッツ (ID: 8cTIMUus)

桂馬は夜道を一人で歩いていた。元々、あの不良達に絡まれさえしなければもっと早くに帰れていたのに。と、桂馬は心の中で呟く。腕時計に目をやると、8時前だった。家に門限があるわけではないが、いつも遅くても7時には帰宅する俺が、今日は8時帰宅+この傷だと絶対詰め寄られるな。喧嘩したの?とか相手は?とか。面倒だなぁ……。
ハァ、とため息をつき家に帰ってからの事を考えると自然に足取りが重たくなる。桂馬は頬に貼ったバンドエイドを擦ると、家まであと少しのところまで来ていた。
その時、携帯の着信音がした。ピロピロリンという昭和ゲームの効果音の様な着信音だが、桂馬は着信メロディとかを好まず、この華のない効果音が好きだった。ポケットに手を入れて携帯を取ると、画面を開いて受信BOXのところを見る。気づかない間に2通来ていて、今来たのは母さんから。今どこにいるの?という素っ気無い文だったが、流石に8時前なのは母さんも心配なんだろうな。もう一通は、あの不良と喧嘩している最中。相手は……藍川唯、桂馬が悩んでいるイジメ事件の被害者。そして、桂馬を救ってくれた恩人。
桂馬はメールの文面を確認する。そこには、可愛らしい絵文字と共に、こんな文章が書かれていた。

『久しぶり!いきなりでごめんね^^;
突然なんだけどさ、今日の8時に〇〇公園で会えないかな?
あ、忙しかったら大丈夫だよッ♪』

……今、何時だ?
現在7時55分、〇〇公園はすぐそこだ。これが送られてきたのは5時過ぎだから……。
桂馬はしばらく考えたが、やがて結論を出したのかメールを打ち込み始めると、ピッと送信した。そして、桂馬は〇〇公園へと走り出した。
桂馬の送信BOXには今送った文面がキッチリと保存された。

『今から知り合いと会うから少し遅れる。晩ご飯は残しといて。』


「あっ!来てくれたんだ!」
唯は飛び跳ねて喜びながら桂馬に駆け寄る。桂馬は少し照れくさそうにしながらも唯に手を振る。
唯は笑顔で桂馬が来てくれた事の喜びを語りだした。メールの返信が無かったから心配だったとか、もし断られて気まずくなったらどうしようとか考えてたとか、無邪気にそれを語る唯を見て、桂馬は彼女がイジメられる原因がますます分からなくなった。
彼女は他人から羨ましがられる程の学力は無い。決して運動神経もいいわけではないし、別に恨まれる様な事をやっている様にも見えない。
コンプレックスがあるわけでもなく、見た目もどちらかと言えば可愛いの部類に入るであろう童顔と容姿、そして性格はこの様に無邪気で天真爛漫。普通の女子高生で、イジメられる原因は見当たらない。
考え込んでいた桂馬の顔を唯が覗き込むように見上げる。意識をふと現実に戻した桂馬は、慌てる様に赤くなっているであろう顔を見せない様に後ろを向きながら唯に今回の用件を聞いた。

「うん……あのさ、私来月に引っ越すんだ」
唯の先ほどの嬉しそうな笑顔から一変、悲しそうな目にはうっすらと涙が溜まっている様に見えた。桂馬は、一瞬彼女がイジメられているシーンを想像して考えたが、その考えは一旦振り払い彼女に引っ越す理由を聞いた。彼女は、家の都合だと言ったが恐らく……
「イ……イジメの事だろ?」
桂馬は慎重に気遣う様に言った。決して唯を傷つけない様に丁寧な口調で。唯は目を少し見開いたが、すぐに笑顔で「違う違う!ホントに家の都合だって!」と明るく振舞った。でも桂馬は、それは嘘だと直感で感じていた。桂馬は、明るく振舞っている唯に
「お父さんとお母さんに……相談したんだろ?それで、引っ越す事に……」
と言うと、唯は図星なのか目の中に溜まっている涙が今度ははっきりと見えた。唯の笑顔は段々泣き顔へと変わっていくのが分かった。唯は目をゴシゴシと擦ると、少し悲しそうな顔で
「うん……」
とだけ呟いた。桂馬はそんな悲しそうな唯を励ますようにこう言った
「俺さ……この一ヶ月で、絶対お前のイジメなんて止めるから!だから、そうなった時は……引っ越すことは考えてくれないか?」
桂馬は段々自分の顔が赤くなっていくのを感じていた。唯の顔に徐々に笑顔が戻っていって、唯は声を上げて笑い始めた。
「トマトみたい……アハハッ!」
桂馬はその言葉で更に赤くなり、唯の笑いは止まること無く聞こえていた。桂馬は今思うと、今の台詞が恥ずかしかったかなと穴があったら入りたいくらいだった。
唯は目に浮かんだ笑い涙を拭うと、口元を少し緩めて「ありがとう」とだけ言うと、足早に帰っていった。
「え?ちょ、おい!」桂馬が呼び止めようとしたが、既に唯は夜道へと消えていった。後を追いかけようと思ったが、アイツの家は此処から徒歩30秒もかからないし、人通りの多い道を通るから不審者に襲われる事は無いだろう。
顔の火照りを感じて、桂馬はそそくさと帰っていった。



@某所

——まぁまぁ面白そうな事になってきたなぁ……。
公人は桂馬の様子を見ながら指を鳴らす。すると目の前の机に三枚のカードがボンッという音と煙に紛れて現れた。
公人は右にあったカードを引いた。引いたカードはクローバーの4。それを見て、公人はニヤリと笑う。

——コイツにはちょっと難しいんじゃないか?
モニターに映る桂馬の姿を見ながら、公人はカードを宙へ放り投げた。