ダーク・ファンタジー小説

Re: Amnesia ( No.10 )
日時: 2015/05/30 17:44
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

「え、そう?じゃあ、私はへやにもどっ————」

しゃがんでいた私は、体を反転させながら立ち上がろうとした。

その時。

『ぼふっ』

顔が柔らかい何かにあたっている。
私はよろけながらも1歩後ろへ後退した。

すると、見覚えのない子が見覚えのあるわたしのワンピースを着て
顔を赤らめながらも、こちらを心配そうに見つめている。

「あ、あの…大丈夫です…か…?」

この子は誰だろう

「あの…先程はたすけていただき、ありかとうございました。服まで貸して頂いて…ほんと…すみません…」

その子はガバッと頭を下げて詫びてきた。

この子が、さっきの泥———…。

先程までの泥からは想像の出来無いくらいのかわいさだ。

「あの…?」

声をかけられてハッとした。つい、ジロジロと見てしまっていたらしい。
この子に兄か弟がいたらどんなに美少年だっただろうとつい、考えてしまった。

「あ…えっと…君、なまえは…?」
思わずそう聞いてしまった。我ながら、ベタな質問だったとは思うが、
ずっとだまりこくっているよりかはマシだろう。

「花井…舞です」

彼女—…舞はそう言って微笑んだ。花井…どこかで聞いた名前だ。
「花井さん…って、あの崖の上の…?」
姉さんが舞にといかけた。そうか、どうりで聞いたことがあると思ったが。
「はい。ご挨拶に伺おうと思ったのですがご挨拶ここへ向かう途中、がけからおちてしまって…あのいけに…」

そう言ってうつむく彼女のからだには、たしかに無数のかすり傷やあざができていた。

「あら…。大変。さえか、傷の手当をしてあげて?」
「え、そ、そんな…大丈——」
舞が言いかけたのを姉さんはさえぎって、
「だめよ。傷口に菌でも入ったら大変だわ。腕を切り落とさなくちゃいけなくなるわ?」
「……。」
姉さんの勝利だった。舞は完全に閉口してしまった。
「さぁ、さえか?舞ちゃんを連れて行ってあげて?」
「うん」

私は、舞の手をとった。

舞の手は温かく、じんわりと汗ばんでいた。