ダーク・ファンタジー小説

Re: Amnesia ( No.31 )
日時: 2015/06/12 20:06
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

中学校に入学してから、3度目の夏が来て、僕たち兄妹も3年生になった。

中3の夏、ということで、僕たち兄妹も勉強に明け暮れていた。
そんな夏休みのある日のことだった。
その日は、僕以外の家族がみんな、出かけてしまっていた。

おなかの底からぐぐぅっと、重低音が部屋の中で響き渡ったことで、僕は、自分の空腹に気がついた。
いい子な僕は、クーラーをガンガンに利かせた部屋で一人勉強をしていたのだ。

時計を見ると、もう1時を回っていた。
僕は勉強を一時中断して昼食を取ろうと、階下へ降りようとした。
ちょうど階段へ差し掛かろうとしていたときだ。

ふと、何かが目にとまった。
それは、桜色のかわいらしいノートだった。
僕はそのノートを手に取り、中を開いた。

日記のようだった。
文字は舞のものと見て間違いないだろう。
僕は、ほんのいたずら心で中を、少しだけ、読んでみることにした。


     ○月△日
     咲ちゃんって子が友達になった。
     かわいい子だ。双子の兄がいるというと、
     驚いたようだった。
     笑顔が、すごく似合っていた。

            ○月×日
     咲は、翔太と出会ったみたい。
     顔が真っ赤だった。
     咲は私に翔太のことについて
     しつこく聞いてきた。それから今日は、
     翔太の話ばかりだった。

            ○月△○日
     今日も翔太の話ばかり。
     ずぅっと翔太の話ばかり。
     翔太翔太翔太翔太ー…。
     咲は、私と翔太、どっちがスキなのー…?


風でページがペラペラとめくれ、日記は、昨日のところに飛んでしまった。


            ×月○日
     また、友達が翔太が好きだ、と言ってきた。
     紹介して、と頼まれてしまった。
     でも、
     紹介なんて、絶対しない。
     紹介したら、また私から離れて行ってしまう
     でしょう−…?
     そんなこと、絶対許さない。
     私の友達を盗らないでー…?
     翔太………。


日記はここで終っていた。
僕はノートをそっと、元の位置に戻した。
舞がこんなことを思っているなんて、知らなかった。
舞h−…。

ピルルルルルル

びくっと、僕の体が跳ねる。

ピルルルルルル

どうやら、電話が鳴っているようだ。
僕は急いで階下へ降りて、受話器を取った。

「はい」
「あ、こちら、○○病院のものですが、花井舞さんのご家族の方ですか?」

落ち着いた男性の声が聞こえてきた。
「は…はい」
「至急、こちらに向かってください」

突然のことで、頭が真っ白になる。…病院…?
舞に何かあったのだろうか?

「舞に…なにかあったんですか…?」
恐る恐る、尋ねてみた。
男性は落ち着いて聞いてくださいね、と前置きした後、
よく通る声で、僕に告げた。

     「花井舞さんは事故に遭いました」