ダーク・ファンタジー小説

Re: Amnesia ( No.50 )
日時: 2015/07/05 19:03
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

真っ暗で何も見えない世界で、誰かが私を呼ぶ声がする。

誰?誰が私を呼んでるの—…?

「…か…さ…さえ……ん………さえかさんっ!!」

パチリと目が覚める。
白い—…天井……。

「さえかさん!」

舞の泣き顔が目の前に急に現れた。
「…舞…?」
「よかった、目を覚ましたんですね」
舞はそう言って私の手をにぎる力を少し強める。

「さえかさん、お見舞いに行っている途中で倒れてしまったんですよ。それで、この病室に……。そうだ、さえかさん、目を覚ましたので先生を連れてきますね」
舞は私に優しく笑いかけると、病室から出て行った。


そっか…。私、気を失っていたんだ。
だんだんと今までの記憶が蘇ってくる。

…姉さんは私のことを、忘れていた…?
それとも、私が人違いをしていた?いや、それはありえない。
私が姉さんを…家族を見間違えるなんて。

じゃあ、どうして姉さんはあんなことを言ったの?
なんで?どうして?翔太さんと出会ったから?
翔太さんに事故に合わされたから?
翔太さんを好きだから?

翔太さんが…翔太さんのせい……?………だよね…………………?

そんなことを考えていると、急にガラリと病室の扉が開いた。
先生と舞。そして—…翔太さんがそこにいた。
「やあ、さえかちゃん。目が覚めたんだね。よかったよ」
温厚そうな先生が優しい口調で話しかけてきた。

「私は…大丈夫です。それより…っ姉さんはどうしてしまったんです!?」

『姉さん』という言葉を聞いて翔太さんの肩がビクリと震える。
「…姉さんとは…『美藤 静』さんのことかな?そうか、君のお姉さんだったか…なら…話しておいたほうがいいかな?」

ゴクリ、と生唾を飲む。

「…君のお姉さん…美藤静さんは…『Amnesia』つまり、『記憶喪失症』なんだ」

……は……?

「頭に強い衝撃を受けてしまったことからだろ——…」

最後の言葉まで私は聞かなかった。
次の瞬間、私はベットから飛び出し、翔太さんに向かって駆けた。

あと少しで翔太さんに手が届く。
私の左手にはガラスの花瓶が握られていた