ダーク・ファンタジー小説
- Re: Amnesia ( No.55 )
- 日時: 2015/07/07 21:25
- 名前: のれり (ID: R4l9RSpR)
翌日。私は、姉さんを迎えに病院へと行った。
病院からの帰り道、私達は一言も話さなかった。いや、話せなかった。
話してしまえば、私はこみ上げる激情を止められる気がしなかったから。
家についた姉さんの行動はナニカガオカシカッタ。
漠然と感じる違和感。最初は気のせいだと思っていた。
だが、姉さんのある一言のおかげで、その違和感の正体が判明した。
「『さえか』、『舞ちゃん』とはずいぶん仲良く慣れたのね。よかったわ」
そう、姉さんは言ってきた。
姉さん…もしかして…
「私のことを覚えているの…?」
自然と声が震える。まさかまさかまさか。
姉さんは一瞬驚いたように瞳を大きく見開いたあと、ぎこちない笑みを浮かべた。
「…なんの…こと…?」
姉さんは『左手の小指の爪』をこすりながら、私に聞いてきた。
そう…なんだね、姉さん。
「姉さん…私…名前も、舞のことも一度も話していないよ…」
姉さんは顔色をサッと変え、目をそらした。
それに、と私は付け足した。
姉さんの癖—…それは…
「姉さんって、嘘をつくとき、ずっと『左手の小指の爪をこすってる』よね」
姉さんは自分の左手を後ろに隠した。
「ほら、隠した。嘘って言ってるようなものだよ」
姉さんは、少し俯いてから、顔を上げ、私に微笑んだ。
「舞、お見事。ごめんね。少し驚かすつもりでいたんだけど…舞が倒れちゃって、言い出す機会がなくなってしまって…ごめんね?」
そう言う姉さんの顔はとても素敵な笑顔だった。
なんだか、今までの自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。
緊張が和らいだせいか、涙腺が壊れたようで、涙がぼろぼろと出てきて、一向に止まりそうになかった。
私は姉さんに思い切り抱きついた。
姉さんの服が私の涙でグシャグシャになろうが、知るもんか。
私を苦しめたバツだ。思いっきり泣いて、思いっきり甘えてやる!
十数分ぐらい泣いたのだろうか。
いつの間にか私は泣き止んでいて、姉さんは私の頭を優しくなでてくれていた。
話す余裕ができたので、私は姉さんに最終確認をすることにした。
「姉さん…私達のこと…本当に覚えてるんだよね…?」
「ええ、もちろんよ」
「…翔太さんのことも…?」
ええ、もちろんよ。そう言って、姉さんが赤面するところを見てやろうとした私は驚きを隠せなかった。
姉さんが困っ様に私のことを見つめ返してくる。
え………?
「だあれ?その人。そんな人…いたかしら…?」
今度こそ姉さんは嘘をついていないようだった。
翔太さんだけが忘れられてしまった…?
かわいそう…ううん、かわいそうなんかじゃない。
これも自業自得だ。
どうしても忘れられたくないなら、自分の命を捨ててでも姉さんを助ければよかっんだよ。ね……?…翔太さん———…?