ダーク・ファンタジー小説

Re: Amnesia ( No.56 )
日時: 2015/07/09 23:32
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

姉さんが退院した次の日。

翔太さんと舞は姉さんの見舞いにやってきた。
私は、翔太さんに本当のこと—…つまり、姉さんが翔太さんのことだけを忘れてしまっているという事を話すべきか、どうか迷っていた。

そして、私は翔太さんに全てを話すことにした。
翔太さんが、記憶をなくしてしまった姉さんのことを好きでいてくれるなら—…
姉さんがそれで幸せになってくれるなら—…

私は姉離れするいい機会だと踏んだ。
私には舞が—…親友がいる。寂しくないといえば嘘になるけど、姉さんが一緒でなくてももう一人ぼっちではなくなった。



私が翔太さんに、姉さんの症状のことを話すと翔太さんはとても寂しそうな…スネたような顔をすると、
「…なんで僕のことだけ…」
と、つぶやいていた。

ひと通り姉さんの話をし終わると、翔太さんは姉さんと話がしたいと言って、
姉さんの部屋へ入っていった。

二十分程たった頃、
翔太さんは姉さんの部屋から出てきた。
少し目が赤くなっている。
何かあったのだろうか。少し心配しながらも、私も舞も何も聞けなかった。
本人がそれを隠すように気丈に振舞っているのに、
あえてそこを聞き出すのも酷というものだろう。

私は、翔太さんはショックを受けて、
もう家に来ることはないだろうな、と思っていた。

でも

違った

翔太さんはこれから、毎日、自分のことを思い出してくれるまで、
見舞いに来るというのだ。

正直、驚いた。
翔太さんがそこまで姉さんに本気だったなんて。


姉さんが少し羨ましくなった。
自分の事をこんなにも愛してくれる人がいて。

私の、翔太さんを見る目が少し変わった。

私も、翔太さんも。
この時の舞の鋭い視線に気付くことはなかった。