ダーク・ファンタジー小説

Re: Amnesia ( No.57 )
日時: 2015/07/10 23:38
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

どくどくと、五月蝿いくらい僕の心臓はなっていた。

さっき、さえかちゃんから聞いた話を、いまいち信じ切れないでいた。
僕のことだけを忘れるなんて…。
僕は、真相を確かめるために直接静さんに会ってみることにした。

僕は、軽くノックをしたあと、部屋に踏み込んだ。
「静さん、こんにちは。…翔太です」
一応、名乗る。

一歩。部屋に入ると、静さんと目があった。
静さんは僕に向かって微笑んでくれた。

なんだ。嘘か。嘘だったんだ。静さんは僕に微笑んでくれた。静さんは僕のことを忘れてなんかいなかったんだ。
僕は、静さんに、一歩、また一歩と近づいた。

「静さ——……」
「はじめまして。あなたはだあれ?」

静さんが笑顔で問いかけてきた。

「…え…?」
僕の頭の中で、静さんが言い放った言葉が反芻する。
『ハジメマシテ。アナタハダアレ?』

「…もしかして、私のお見舞いに来てくれたの?だったら、私はもう大丈夫よ心配しないでね」

静さんは一言も発さなくなった僕に困惑していた。
でも、それ以上に僕の心の中は困惑にあふれていた。
静さんは僕のことを…忘れてしまった……?

なんて嫌な気分なんだろう。いや、違うな。
なんて、なんて…虚しいんだろう。

でも、静さんが僕のことを覚えていないのなら。
「静さん。僕…」
僕は…
「明日も、明後日も毎日来ます」
あなたが僕のことを思い出してくれるまで
「静さん。大好きです」
僕の命の時間を貴方に、貴方だけに捧げます。