ダーク・ファンタジー小説

Re: Amnesia ( No.63 )
日時: 2015/07/13 22:03
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

静さんが退院してからもう三週間がたった。
一週間後には、クリスマスがある。クリスマスは僕と舞、静さんとさえかちゃんの四人で過ごす予定だ。

もっとも、僕のことを覚えていない静さんが、僕の同席をきっと不思議に思うだろうから、僕はさえかちゃんの友達、という扱いだが…。

でも、好きな人と少しでも長くいっしよにいられるなら、どんな扱いでも一緒にいられるだけで、十二分に幸せだった。


僕は今日も静さんに会いに、美藤邸を訪れていた。いい加減、見舞い、というのも不自然なので『さえかちゃんの友達で、遊びにきている人』という
肩書で、静さんに会いに行っている。まあ、相変わらず静さんは僕のことを
一日で忘れてしまうが…。

そんな日の午後、
帰り支度をしていた僕は違和感を感じた。誰かにシャツを掴まれているようだった。最初、舞かと思った。
でも、後ろから聞こえた声は舞ではなかった。

「…翔太さん…」
「…さえ、か…ちゃん…?」

驚いたことに、シャツを掴んでいたのはさえかちゃんだった。
さえかちゃんは、じっとこちらを見ていた。

「…翔太さん…まだ、姉さんのこと…好きですか…?」
「…え…?」
いきなり、どうしたのだろうか。しかも、こんな恥ずかしいことを…。
「まだ…好きでいるんですか…誰よりも…?」
さえかちゃんの声は震えていた。
心なしか、顔が赤いように見える。

「…うん。誰よりも…いつになっても、どんな事があっても、少しも変わらず大好きだよ。でもね。さえかちゃんのことも、舞のことも大好きだよ。さえかちゃんは、一番大切な女の子の友達だし、舞は僕の大事な妹だ。好きって言っても、たくさんの好きがあると思うんだ。…って、何言ってんだろう…?
ヤバい待って、すっごい恥ずかしい…」
そう言って、思わず左手で顔を隠す。

「…そう…ですか…。姉さん、幸せですね。こんなにも愛してくれる人がいて」
「…!?愛…っ?」
「ふふ。冗談。帰るんですよね?それじゃ、また、明日…」
「あ、うんまた、明日」

帰り際のさえかちゃんの笑顔が、どこかぎこちなかった。
無理に笑顔を作っているような…。

その笑顔の理由を、僕は家に帰った後、死ぬような思いをしながら知るハメになるのだった。