ダーク・ファンタジー小説
- Re: Amnesia ( No.66 )
- 日時: 2015/07/17 20:36
- 名前: のれり (ID: R4l9RSpR)
僕は美藤邸から帰った後、夕飯の下ごしらえをしていた。
今日はシチューを作っていた。
すると、ふと背後から殺気がした。僕は反射的に左に跳躍した。すると、
今まで僕が立っていた位置にすごい速さで何かが深々と突き刺さった。
歯が十センチほど出たカッターナイフだった。
投げられてきた方を見ると、そこには舞が立っていた。その手にはハサミがきつく握りしめられている。
瞬間、悟った。
——僕を殺す気だ———
舞が僕に駆け寄ってくる。両手でしっかりとハサミを握り締めて。
舞と僕の距離がなくなった時、ブツリ、という嫌な音のあと、左手に激痛が走る。左手が燃えるように熱い。
僕は奥歯が砕けてしまうのではないかというぐらい、思いっきり歯を食いしばった。
「……ま…………いっ!!」
僕は舞の肩を右手で思い切りつかみ、揺さぶった。
舞はきっと、何かに怒っているんだ。それも、僕に憎しみを抱くほどに…。
舞は俯いていた顔をそっと上げた。
その顔は—…
「しょう…た…。ごめんなさい…」
舞が泣いていた。
ポロポロと舞の瞳から雫がこぼれ落ちる。
すると、舞は僕の左手から何かを引きぬいた。
「…っ!?」
鋭い痛みが左腕全体に駆け抜ける。
正直に言うと、若干涙が出た。
僕の左手から紅いモノが滴り落ちる。
僕は左手の痛みを死ぬほど我慢して舞に話しかけた。
「…舞…何が…あったんだよ……?」
口の中に唾がたまる。痛すぎる。
「……っ。翔太…あんなにお願いしたのに…さえかさんを…とったでしょ…」
舞の瞳は一向に涙を止めない。
「さえかさん…っ。翔太のこと好きだって…言ったんですっ…。でも、静さんのこともあるから、諦めるって…そう言って、泣いてたんですよ…。やっと出来た私の友達なのに…泣かせないでよ…っ」
さえかちゃんが…?じゃあ、あの時の笑顔は…。
「でも…ね。さえかさん、言ってくれたんです。私の事が好きだって。大事な親友だって。だから、翔太のおかげでもあるんです…なのに…。泣かされたのに…抑えきれなくて…ごめんなさい…怪我をさせてっ…」
舞の涙が頭を振った拍子に飛び散る。
僕は舞の頬を両手で包み込んだ舞の右頬にべったりと僕の血がこべりつく。
舞は少しも嫌がらず僕の手に頬を擦り寄せる。
すると、舞の涙が左手にしみて、再び激痛が襲う。僕は手を舞の背中に回してしっかりと抱きしめた。
シチューが噴きだす音がどこか遠くから聞こえた気がした。