ダーク・ファンタジー小説

Re: Amnesia ( No.68 )
日時: 2015/07/21 07:34
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

今日はついにクリスマスだ。まだ、左手の痛みは残っているが、日常生活には、あまり支障はでないほどに回復していた。

僕は静さんに渡す…プレゼントと、プレゼント交換のための大きなプレゼントを持って、舞と一緒に家から出た。


歩いて10分。美藤邸に到着した。舞はなんの躊躇いもなくチャイムを押した。
すると、チャイムがなった瞬間にまるで、今の今まで玄関先でずっと待っていたかのような早さでドアが開いた。中からはさえかちゃんが可愛らしくちょこんと顔をのぞかせていた。

「こんにちは…翔太さん…舞…」
舞ちゃんは僕の顔を見るなり下を向いてしまった。心なしか、耳が真っ赤だ。
寒いのだろうか?

僕と舞はさえかちゃんに連れられて、リビングを訪れた。そこには、
静さんが、ケーキの前で生クリームのついた包丁を握っていた。
「あら、舞ちゃん、いらっしゃい。え…と…そちらの方は—…?」
やはり、覚えてはいなかった。
僕は自己紹介を適当に済ませて、僕達4人はパーティを楽しんだ。

そして、ついにプレゼント交換をすることになった。
箱の中に僕達の名前を書いた紙を入れ、紙に書いてある名前の人のプレゼントを貰う、という方式でプレゼント交換は行われた。
僕の引いた紙には『まい』と記されていた。
僕は舞からプレゼントを受け取った。小さめの箱で、不器用感がにじみ出ていた。恐らく、これは舞の手づくり…。
僕は冷や汗をかきながら、そっと蓋を開けた。

「…炭……?」
「クッキーです!…なんてこと言うんですか!翔太に渡すんだったら、もっと焦げたのを入れればよかったです!」
うん…。これ以上に焦げるってどんなものなんだろうね?
とは言っても、『あの』舞が作ったものだ。後で丁重に土に還そう……。
舞のプレゼントは何かと覗きこんだら、勢い良く隠された。
たぶん…さえかちゃんにもらったものなんだろうな…。

すると、うしろから、クイッと袖を引っ張られた。何度目だろう…これ。
やはり、犯人はさえかちゃんだった。さえかちゃんが、僕の目の前に紙を突きつけてきた。そこには、僕の書いた、『翔太』の文字。
さえかちゃんは、頬を赤らめながらじっと見つめてきた。
僕は、そばに置いておいた大きなプレゼントを掴んだ。そして、さえかちゃんにそっと差し出した。

「メリークリスマス、さえかちゃん」
自然と笑みがこぼれた。
さえかちゃんは、これ以上ないくらいに顔を真っ赤にさせ、怒ったように眉を釣り上げた。さえかちゃんは、プレゼントを受け取り、中身を出した。
「……クマ……」
僕のプレゼントは大きなクマのぬいぐるみだ。さえかちゃんは、ギュッとくまを抱きしめ、小さな声で「ありがとう」と言って舞の方へ行ってしまった。

あれ、そういえば、静さんは…
「あら…私は自分のになってしまったわ」
静さんは残念そうに口を尖らせた。そんな仕草がとても可愛らしく見えてし
まう。僕は、静さんの手をとった。
「……っなに……?」
静さんは困惑した声を出した。
僕はそのまま階段の上まで来た。

「…静さん…これ…」
僕は、静さんに長方形の箱を差し出した。
静さんは箱を受け取った。
「これを…私に…?」
僕がコクリと頷くと、静さんは箱を開けた。
「…かわいい……つけてもいい……?」
「はい、ぜひ!」
静さんはそう言って僕のプレゼントをつけてくれた。
紫色の石がついたネックレスが、静さんの肌の上でキラリと光る。
「どう…?似合って——…」

そう言いかけた静さんの体ががくりと、沈む。
静さんが階段から、ゆっくりと落ちていく。
僕は左手を差し出す。しかし、傷口がその瞬間、パカリと開く。左手に激痛が走った。僕は思わず手を引いてしまった。
「あ……」
静さんの顔が困惑で埋め尽くされていく。
「……翔太……くん………?」

僕は思いきり右手を伸ばした。