ダーク・ファンタジー小説
- Re: Amnesia ( No.73 )
- 日時: 2015/07/22 21:17
- 名前: のれり (ID: R4l9RSpR)
静さんの指先と僕の指先がかすかに触れ合う。
それと同時に僕はもっと手を伸ばし、静さんの手を握り、自分の方へ引き寄せる。
きっと、この一連の動きは大した時間じゃないだろう。だけど、ぼくにはとてもスローモーション見えた。酷く、長く感じた。
次の瞬間、倒れこんで、尻餅をついた僕の上に静さんが倒れこんでくる。
「…静さ…ん…?」
意識確認のため、とりあえず名前を呼んでみる。
静さんはゆっくりと顔を上げた。だが、その目は焦点が合っておらず、
僕の姿を捉えていないことは明確だった。
「…しょ…たく…ん…。どうして………」
「…え…?」
静さんはそれだけを言うと、がくりと脱力し、僕の上に静さんの全体重がのしかかってくる。
僕は動揺した。
どうして、僕の名前を呼んだんだ—……
僕は、静さんに名前を教えていない。なのに、どうして—…?
もしかして、静さんは記憶をとりもどした—…?
「姉さんっ!!」
突如聞こえたさえかちゃんの声で我に返った。階段の下をのぞき込むと、騒ぎに駆けつけたさえかちゃんと舞の姿がそこにはあった。
僕は、静さんを抱き上げた。腕にかかる体重の重みから、静さんがたしかにここに存在している、という安心感がこみ上げる。
僕は、静さんを部屋へ連れて行き、ベットに横たわらせた。
「さえかちゃん…ごめん…また、しずかさんを…」
「いいえっ」
謝罪をしようとした僕の言葉を遮ってさえかちゃんは否定した。
静さんのことを心配そうに見つめていた顔を上げ、僕のことをしっかりと見とめる。
「姉さんを…守ってくれて…ありがとう」
「…いや…守れてなんか……。……さえかちゃん…もしかしたら、静さんは—…」
ゴクリ、と唾を飲み込む。
「僕のことを、思い出したかもしれない」
さえかちゃんの瞳が、動揺したかのように揺れ動いた。
「…そう…ですか…。姉さんが目を覚ましたら、聞いてみます」
そう言ったさえかちゃんの瞳は酷く潤んでいた。
僕は後ろ髪引かれながらも、舞に背を押され、美藤邸を後にした。