ダーク・ファンタジー小説

Re: Amnesia ( No.78 )
日時: 2015/07/25 12:21
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

翌日。
僕と舞、そしてさえかちゃんは静さんの部屋の前に立っていた。
僕の心臓の音が五月蝿いぐらいに聞こえてくる。

僕は震える右手をゆっくりと持ち上げ三回、ノックをした。
「はい…どうぞ」
静さんの声が中から聞こえてきた。僕は隣にいる二人の顔を見て、
ゆっくりと頷いた。

ドアノブに手をかけ、扉を押し開く。
部屋の中の静さんは窓際のイスに腰掛け、こちらを見ていた。
僕の視線と静さんの視線が交差する。
すると、静さんは口元にうっすらと笑みを浮かべ、目尻を下げた。

「こんにちは。翔太君、舞ちゃん」
斜め後ろで舞が会釈をする気配がする。
僕は、というと—…

左手に持っていた花束がパサリと落ちた。
怪我が完治したわけではないので握力が低下しているのは、確かだが、
持っていたものを、持てなくなってしまうほど握力が低下したわけじゃない。
体から力が抜けていくような感覚———…。
そのせいだろう。

涙腺が緩んでしまったのは。だんだんと僕の世界が歪んでいく。
大好きな彼女の顔も誰だかわからないくらいに変形した。
僕の瞳から涙がぽつり、ぽつりと重力に逆らわずに落ちていく。
僕は、両手でその涙を振り払った。

ようやく、静さんの顔が見れた。
「静さん、思い出してくれたんですね」
僕は微笑みを浮かべた。