ダーク・ファンタジー小説

Re: Amnesia ( No.79 )
日時: 2015/07/26 12:21
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

僕は、静さんのそばまで駆け寄り、静さんの手をとって立ち上がらせ、
抱きしめた。
もう、この手を離したくなかった。ずっと、抱きしめていたかった。
「…っ、翔太…くんっ」
静さんは抵抗しようと、僕の腕の中でもがいていたが、だんだんと力を抜いていった。
そして、僕の背中に腕を回し、優しくなでた。

「どうしたの?翔太君…なにかあった?」
静さんの声は泣きたくなるほど優しかった。
また、僕の目に涙が溜まってくる。

扉の方へ目を向けると、部屋から出ようとしていたさえかちゃん目があった。さえかちゃん口をパクパクさせた後、微笑んで、舞と共に部屋から出て行った。

『よかったね…頑張って』

そんな風に言われた気がした。
そうだ。僕も勇気を出すんだ。

「静さん…話したいことがあるんです」
僕は、右手を、固く、固く握りしめた後、そっと静さんを離した。
静さんの瞳を覗きこむ。
「静さん…貴女のことが大好きです」
やっと、言えた。記憶を無くす前の貴女に。
僕の思いを告げられた。

「…あ、ありがとう…翔太君…私もだよ。翔太くんが…すき」
そう言って、微笑む静さんの顔は今まで見てきた笑顔の中でも
一番綺麗だった。

僕はまたもや静さんに抱きつき、静さんを赤面させたことは言うまでもない。
僕達は日が暮れるまでの間、ずっと、話していた。
もちろん、お互いの指を絡めて。

僕は静さんと分かれなくちゃいけないことがもどかしかった。
それでも、静さんが『また明日も会えるから』と言ってくれたのが、
何故か同仕様もなく嬉しかった。
単純な自分が馬鹿みたいだったが、それでも、僕は何度も後ろを振り返っては、静さんに向かって大きく手を振った。

隣の舞からはイタイ目でずっと見られ続けたがそんなの知ったこっちゃない。
静さんの姿が見えなくなっても僕は何度か、後ろを振り返った。

冬は日が暮れるのが早い。
あたりはもう真っ暗だった。ふと、空を仰ぐ。
紺色の空に不規則に並んだ星。
星々が僕らの未来を照らしだしているようだった——…。