ダーク・ファンタジー小説

Re: Amnesia ( No.90 )
日時: 2015/08/06 14:36
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

「…この病気はね……治ることはないと言われているんだよ」
医者はそう言って目を閉じた。

治ることは、ない———…?
医者の言葉がまるで、おもりのように僕の心にのしかかってくる。
何も言えずに俯いた。

もう、涙もでてこない。

だって、もう静さんは思い出せない。

もう、あの日のように笑い合えない。

もう……あの刻の静さんは…いないんだ。

「だから、美藤さんは—…」
「でも」

さえかちゃんは、医者の言葉を遮った。
そして、右の手にぬくもりを感じる。
驚いて右側を見ると、さえかちゃんが僕を見て、優しく微笑んでいた。
その笑顔はどこか静さんに似ていて、なぜか安心した。
さえかちゃんは、医者に向き直ると、目つきを険しくした。

「絶対に治らないわけじゃないんですよね?」
「そ、それはそうだが……」
医者は困ったように眉根を寄せる。

右手に力を込められた。
さえかちゃんを見ると、さえかちゃんは、コクリとうなずいた。
僕も、それにならってうなずく。


ありがとう、さえかちゃん。

おかげで、決心がついた。

もう、迷わない。


「先生…静さんは、僕が治します。…思い出させてみせます」


Amnesia?僕だけを忘れてしまう?

いいじゃないか。

僕は、この病気に感謝する。


素敵なことじゃないか

だって

何度だって静さんと恋をできるんだから

何度だって静さんに笑いかけてもらえるんだから

僕は、何度だってどんな貴女でも好きになる


ね?

とっても素敵だと思わないかい?