ダーク・ファンタジー小説

Re: Amnesia ( No.94 )
日時: 2015/08/12 19:56
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

今回は、翔太くん視点の番外編です!
それでは↓


「もぅ、また舞ちゃんと喧嘩したのね」
看護師さんはため息をついた。
「…だって舞が…」
「だってじゃないでしょ!もぅ、女の子いじめちゃダメよ?」

違う。イジメられてるのは僕だ。
現に、今こうして治療を受けているのは僕だけだ。
だけど、そのことを言うのはなんだか癪だから黙っていた。

「はい、おしまい。じゃあね、翔太くん」
「……。ありがとうございました」

ペコリと会釈すると、看護師さんは笑顔で手を振った。

治療室を出ると、廊下はもう夕焼けで染まっていた。

「喉……乾いたかな…」

財布を開いてみると、小銭が少し入っていた。
何か買えそうだ。

僕は待合室へと足を向けた。



待合室には、僕と同じぐらいの年の女の子二人がいた。
二人は姉妹みたいで、小さい方の子が、「おねえちゃん、おねえちゃん」
と言いながら、何かしら質問していた。

自動販売機の前に立ってジュースを買った。

「さえか、おとうさんたち、しんじゃうかもしれないんだって」

ふいに、そんな言葉が聞こえてきた。

「しぬってなぁに?」
「わかんないよ…かんごしさんがいってたの」

少し、かわいそうに思った。
その子たちの顔を一目見ようと、顔を向けた。


……。

すごく、可愛い子たちだった。
でも、どちらの子もなんだかうっすらと目が赤くなっていた。

僕は、大きい方の子から目が離せなかった。

ドキドキと、僕の心臓が高鳴る。
うるさい心臓を押さえつけた。

それでも、ドクドクとうるさい音は止まらなかった。

僕は、まだ一口も飲んでいないジュースを、大きい方の女の子に勢い良く差し出した。

「あ、あげる!」
「…え…ぁ、ありがとう」

女の子が受け取ったのを確認したあと、一目散にその場から逃げ出した。

顔が熱い。
僕は必死で走って、病院から逃げ出した。

「はぁはぁ……はぁ…」

走ったせいもあって、喉が余計に乾いてしまった。
僕は仕方なく、そのまま家に帰ることにした。

変える道中、看護師さんのある言葉が頭によぎった。


『翔太くんぐらいの年頃のことって、だいたい大きくなると忘れちゃうのよね』


嫌だと思った。

今日のことを忘れたくないと思った。

今日出会ったあの子のことを忘れたくないと思った。

絶対、忘れない。




でも、僕は気づくんだ。
何年後かになって、忘れていたことに。

いや、もしかしたら忘れていることすら忘れているかもしれない。


どうして、こんなことを思うのか。

だってもう既に、あの子の笑顔を忘れかけているんだもの。