ダーク・ファンタジー小説

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.27 )
日時: 2015/07/04 23:02
名前: RINBYO (ID: jV4BqHMK)

           *

 突然だが、今日夜は運転ができない。それは、自動車やバイクは勿論、自転車も、である。わけは単純で、フードを深く被ったまま運転するなんていうことは、危険な自殺行為であり、事故なんか起こして人に注目されるのは耐えられないからだ。
 なので、遠い場所に行くときは、ほぼ枝暮の車をつかう。電車やバスなど、人の多い乗り物には乗りたくないから、だ。
「そういえば今日夜、その目を隠したいのなら、眼帯でもすれば良いのではないかい?」
「はぁ? じゃー口はどうすんだよ。眼帯にマスクとかただの不審者だろ。それに、右は視力クソ悪いんだよ」
「いや、今の長い前髪に大量のピアスっていう格好も充分怪しいと思うが……」
 そんな車内での二人の会話を聞きながら、つづりはずっと外を眺めていた。長い間家に閉じ込められていたつづりにとっては、賑やか街並みも、高いビルディングも、全てが目新しかった。空腹の時はご飯がおいしく感じるように、なんてことない風景も、世界を知らない彼女には、キラキラと光って見えた。
「まったく今日夜は……。……ん? どうしたんだい、つづりちゃん。そんなに珍しいかい? この街は」
「……うん。しらないのがいっぱい。キョウヤおにいさん、あれなに? あのへんなの……」
「……あれはー……俺もよくわかんねぇ」
「最近できたインテリアショップだよ。ここらでは最大級だけど、確かに奇抜なデザインだね……」
 つづりに街を教えつつ、一時間弱。車は、小さなふるびたビルディングの前に止まった。
「……ここだよ」
「んだよ、ここ。廃墟みてぇ」
 今日夜がそういうのも無理はないほどの廃れ具合だ。汚れた壁には苔がはえているし、二階の窓なんかはひびが入っている。
「まあまあそういわないで。ここの地下にあるんだ、喫茶店は」
「きっさてん?」
「人が軽食をとって休んだり、談話を楽しむところだよ」
 そういって枝暮はまるでお化け屋敷のビルディングに臆することなく入っていく。それに今日夜たちもつづく。