ダーク・ファンタジー小説
- Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.35 )
- 日時: 2015/07/20 21:58
- 名前: RINBYO (ID: jV4BqHMK)
「どうした?」
「……いや、気にしないでくれ」
そうして枝暮は玄関に消えて行く。その後ろを、ダルそうについて行く鈍。
今日夜は、温厚な彼の、裏の一面を知っている。だが、その時は、特に気にも止めず、談笑を続けるのだった。
*
「んで? なんのよう?」
枝暮と鈍がやって来たのは、このビルディングの最上階……屋上だった。
夏だというのに、冷たい風が吹いている。
「君は……今日夜とどういう関係だい?」
まだ、いつものニコニコとした表情だ。鈍も相変わらず、気だるげに、ニヤニヤとしてこたえた。
「は? 別に……昔一緒の孤児院にいたってだけ……悪い?」
「今日夜のさっきの態度をみれば、それだけじゃ無いとわかるよ。正直に白状したまえよ」
声に冷気が混ざる。
「なぁに? 俺様に指図する? しちゃうぅ? あは、度胸あるよね、お前って」
こちらも笑顔を消した。
風が、一層冷たく、身体を突き刺すようだ。
「その人を害虫みたいに見下す目……気に入らないね。今、ここで使えなくしてやっても良いんだよ?」
枝暮から放たれるのは……殺気か?
「やってみろよ、失敗作」
失敗作……彼は確かにそういった。そして、その言葉に、枝暮がピクリと反応する。
「昔……ある人から同じことを言われたが……それはどういう意味だ」
「へぇ……もしかして、姉さんかな? どういうって……そのままだけど? 怪物になりきれなかった5つの失敗作」
枝暮は目を見開く。自然と、拳に力がこもる。
「君は……っ」
「……俺様たちは[計画]の元、彼を鎖で縛って、枷で繋いで……ここまでずっと封印してきたんだ。君と姉さんを引き合わせたのも[計画]。今日夜が俺様を殺し喰らったのも[計画]。人狼が今日夜と出会ったのも[計画]……」
「もう、良い……分かった……分かったよ……」
その目に、精気は残っていない。
鈍も、真顔で、意思を込めた瞳で……真っ直ぐ前を見据えていた。
「俺様は、[計画]が進行した今……手綱を握らなければならない。それが姉さんの望みであり、俺様の使命だ。一応……お前らには悪いと思ってるよ」
ハッと枝暮が顔をあげる。
「計画が……進行しただって!?」
鈍は枝暮に背を向けた。腰に巻いた黒いコートが風になびく。
「失敗作たちと、怪物たちが集まった……分かるだろう? 食人鬼、來枝暮なら。お前は利口だから」
「僕が……今日夜を……」
「さ、戻ろっか、シーグレくーん? 俺様、こーんなしけた場所に長居したくないしぃ?」
くるりと振り向いた鈍は、またニヤニヤとした表情に戻っていた。