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ダーク・ファンタジー小説
- Re: 月夜にて ( No.4 )
- 日時: 2015/06/11 19:23
- 名前: RINBYO (ID: jV4BqHMK)
まだまだ雨は降り続いていて、窓にあたる雨の音が、部屋中にしつこくなり響く。
男の髪から、ひとつ、雫がしたたり落ちた。雨の中を歩いていた男はびしょびしょに濡れていて、通ってきた廊下も、水滴がおちていた。
「かさ、もってなかったんだ。たおる、もってきてあげる」
そういって少女は、カラン、と大きな血塗れの包丁を落として、浴室のほうへ駆け足で消えていった。
「……はぁ」
男は大きく息を吐いた。このときに包丁を拾って、母親を殺したあとに自殺したと偽装する手もあった。だが、そうはしなかった。少女は殺せない。ただの直感だが、そんな不思議な雰囲気を、彼女はただよわせていた。
少しして、バスタオルを抱えた少女が戻ってきた。手はしっかり洗ったのか、彼女の腕にもタオルにも、血はついていなかった。
「はい」
タオルをさしだした少女の腕……。正確には右腕だが、その手から肘にかけて、厚手の革手袋が填められていた。
「なんだ?その手袋は」
とりあえずタオルを受け取ってから、男は問をなげかけた。
「……これ?」
少女は右腕を指さす。男があぁ、と頷くと、側面についていたジッパーを開き、ゆっくりと手袋をはずした。
「おかあさんね、にんげんはみんなちがうんだからそれでもいいのよっていうくせにね、わたしのて、かくすのよ」
一言で言うと、人間の腕ではなかった。異形の怪物、人狼を彷彿とさせる茶色い毛におおわれていた。そればかりか、爪は鋭くのびている。
人間、それも幼い少女のものとは思えない……。
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