ダーク・ファンタジー小説

Re: 月夜にて ( No.5 )
日時: 2015/06/12 18:27
名前: RINBYO (ID: jV4BqHMK)

「……っ」
「そんなにおかしいの? わたしのて」
 少女は、へんなの、とでもいうように、くるりと背を向けた。
「これ……どうしよ」
 母親の死体を見下ろしていう。
 これ、というあたり、すでに哀しむ気持ちは無いのか?
 それほど、辛い思いをしていたのだろうか。
 男は、自分の幼少期をおもいだす。
 本当の親の顔をおもいだそうとすると、いつも霞がかったように記憶が薄れてしまう。
 異常性からか、いつも孤立していた孤児院での生活。先生からでさえも気味悪がられ、毛嫌いされていた少年時代。
 このままなら、死のうか。とさえも思ったことがある。
 そのとき、彼を引き取ってくれたのは、若いころ妻に先立たれ、子供のいない、一人の男性だった。
 はじめは不審感を否めなかった。だけど、彼の優しさに触れていくうちに、幸せだ。と思えることができるようになった。
 結局、男は、彼を「父さん」とも、「親父」とも呼ぶことは無かったけれど、本当の家族以上に、彼らは家族らしかった。
 家事も、勉強も、生活に必要な知恵も、全てを教えてもらった。
 ずっとこんな日々が続くとおもっていた。
 そしてーー
「おにいさん? どうしたの?」
 少女はこちらに向きなおり、不思議そうに首をかしげていた。
 いつのまにか、雨は小降りになっている。