ダーク・ファンタジー小説

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜復旧 ( No.50 )
日時: 2016/01/07 17:53
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)


「そうだね。いつも君は自分勝手だもの」
 枝暮のみのはずの部屋に、彼とは違う声が響いた。
「[計画]は僕が止める」
「君には無理だ」
「僕は君を……君達を許さない」
「君が許せないのは無力な自分さ」
 声が、枝暮のすぐ耳もとで聞こえた。耐えきれずに枝暮は耳を塞ぐ。それでもなお、声は遠慮無しに彼を責め立てる。
「……背負うのは僕だ」
「身代わりになるって? 甘いね、反吐が出る。そんなつまらはいことさせないよ」
「今日夜にもう二度とあんなことはさせない……っ!」
「彼は『あれ』で楽しみを……快感を得るんだ。一度壊れてしまえば、今日夜くんだってとっても幸せになれる……なんてったって、彼は怪物なんだから」
 違う、と叫びたかった。しかし枝暮の体は動かない。瞬き1つできない。縛りつけて甘言を囁く……まるで蛇のようだと枝暮は思った。
「彼がその手で彼女を……再び『温かみ』や『優しさ』をあやめれば、本物の怪物のできあがりさ。孤独を、闇を自ら選びとった怪物は、破壊と悲しみの……闇の全てを掴み取る。……君も大好きな彼の手で、この大嫌いな世界からおさらばできる__楽しみだね、枝暮くん」

 姿の無い声の主が消えるのがわかった。全方向からかえられていたような重い重い圧力が、一気に無くなっていくようだった。
 枝暮の体が楽になる……動くようになった瞬間、嫌な汗が噴き出して、心臓の鼓動がバクバクと早くなった。
「……させない……させるものか」
 それでも、その瞳に灯る憎しみの炎と……決意の意思は消えなかった。空を睨み付ける。

「苦しむのは、憎まれるのは、忌み嫌われるのは、僕だけで良い……醜い僕だけで……」

 彼は最後に……『來 枝暮』である自分の最後に、自分に光を与えてくれた彼の、手をさしのべてくれた今日夜の笑顔を思い浮かべた。

「……終わらせる。全てを喰らいつくす……今日夜、ごめんね。僕はやっぱり__」

『人間』にはなれないみたいだ。

 月の光がさす、まるで2人が出会ったような夜。彼は、本当の『鬼』と__人を喰らう鬼となった。

         *