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ダーク・ファンタジー小説
- Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜復旧 ( No.51 )
- 日時: 2016/01/09 20:11
- 名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)
「……」
真っ黒に塗ったキャンバスの上に、絵の具をはしらせる。ただただ、一心不乱に。白い首筋に伝う汗も拭わず。血を口にしなければ生きていけない男、月詩は、薄いカーテンで日中の強い光を遮った部屋で、絵を描いていた。
「……ふぅ」
ピタリと手をとめて、一息つく。大音量でかけていたクラシック音楽のCDが終わったのだ。CDをかけはじめてから終わるまで……かれこれ二時間、ずっとかきつづけていたのか、と、月詩は自らのことながら、その集中力に感心した。
周りは憐れんだが、彼は自分のこの体質を、嫌っても呪ってもいなかった。むしろ血は好きだ。紅くて美しい、生の証。
だから、月詩は絵を描く時、絵の具は黒と赤しか、殆ど使わない。そして、赤色の絵の具には、大好きな血を混ぜる。
ただ、今回の作品は違った。
彼が今描いていたのは、華々しい青いドレスに身を包んだ女性。
「……」
傍らに置いた写真。それに視線を向けて、月詩は瞼を細めた。長い睫毛が揺れる。
「……咲之城さん」
思わず顔が綻んだ。らしくもないな、と彼自信も思っている。小さなころから、彼はあまり感情を表にださなかった。容姿と相まって、よく人形のようだと言われていた。しかし、彼女と……咲之城 続と出会ってから、彼は変わった。
彼女のことを思えば顔が紅潮したときもあった。彼女が元気を無くしていろば、月詩も心配になって、知らずのうちに悲しげな表情になっていたこともあった。
これが俗にいう恋というものだと気づくのに、時間はかからなかった。
ただ、月詩は彼女に想いを伝える気はなかった。勇気がないともいえる。でもそれ以上に、自分は彼女の近くにいれるだけで良いという気持ちがあった。
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