ダーク・ファンタジー小説

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜復旧 ( No.52 )
日時: 2016/01/10 13:53
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

「……まだまだだな」
 自分で描いた絵を見て、そう思う。自分の心も、彼女の美しさも、全てを描ききれない。完成したと思っても、全然駄目と思い消してしまったり、棄てたりする。そんなこんなで、彼はこの作品を、1年以上前から描きつづけていた。
 写真に写る彼女が身に纏うドレスは、実のところ、月詩が続にプレゼントしたものだ。彼女は赤色を好んでよく着ていた。月詩も好きな赤色は、凛々しく、芯の強い彼女にとてもよく似合っていると思っていた。でも、違う彼女も見てみたい……そう思い、たくさんの色から、月詩は青を選んだ。
 青は赤と混じって、神秘的な夜のような紫になる。悲しみを、寂しさをすべて受け止める青。涙さえもちっぽけなものに感じさせる、広い海の青。
 不可能を表す青い薔薇、そして可憐な百合。可憐で凛としていて、それでいて儚い。そんな彼女に、自分は手が届くはずもない……
 彼女には勿論伝えていないけれど、そんな思いをこめたドレス。彼の予想通り、青は、いつもと違う彼女の姿を魅せてくれた。
 写真を机にそっと置いて、伸びをする。そういえば、朝から何も食べていない、腹が空いた、と月詩は思った。彼は人肉を時々食すだけで良い枝暮とは違って、血だけでは生きていけない。普通の食事も食べなければいけなかった。
 簡単にすませよう……そう思いキッチンへと行こうとした時、ドアがノックされた。
 彼がアトリエ兼自宅として使用しているのは、いわく付きの格安自己物件。男が一人暮らしするのには充分な広さがある、一戸建て。吸血鬼紛いの自分に、いわくも何もないだろうという楽観的な考えで購入したところは、今のところ特に何も起きていない。そんな自宅の場所を、少ない知人の誰にも、教えたことは無かった。近所付き合いもほぼしていない。というか、近隣住民は、気味悪がって近づいてこない。絵を描いているときに邪魔をされたら厄介だから、通販も使用しない。誰だろう、と不思議に思う。
 心辺りを探しながらも、ドアを開ける。そこに立っていたのは……
「ごきげんよう、憑々さん」
「……よう」
「こんにちは、ツキシおにいさん」
「……え」
 月詩は目を丸くした。客人は、月詩の想い人、続……それと昨日知り合ったなにやら理由ありげな二人。
「……なんの用で……?」
 何故ここを?と彼はかなり動揺していたのだが、それを表に出さないように、月詩は平静を装う。