ダーク・ファンタジー小説

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜復旧 ( No.53 )
日時: 2016/01/11 17:22
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

「少し……困ったこと……いえ、大変なことがありまして……」
 続は困ったように口元に手を寄せた。その様子を見て、月詩は陥落した。死ぬかと思った……と、比喩でも冗談でもなく思った。彼の中で、助けにならないという選択肢は消え失せた。
「少し、待ってて」
 そう言って、微笑を浮かべる。家にあげる心の準備が無いというのもあるし、なにより絵を……続を描いた絵を片付けなくてはいけない。
 急いで自室に写真と絵を仕舞う。焦ってしまい、パレットにあったエプロンに青い絵の具がべったりとついてしまったが、待たせるわけにはいかない、と、気にせずそのまま脱ぎ捨てて、雑に畳んで床に置いた。
「おっきいね、ツキシおにいさんのおうち」
「……あー、そうだな」
「ふふ、彼、アトリエと自宅が一緒らしいですからね」
 急ぎやら焦りやら緊張やらでぐちゃぐちゃな月詩の感情を露知らず、外で待つ三人は暢気に会話をしている。
 そして、扉があいた。
「どうぞ、絵、描いてたから……汚いけど」
 散乱していた絵の具やら筆やらをなんとか片付けて、普段動かないしほぼ外にもでない月詩は息があがっていたが、それをおくびにもださず、余裕の振るまいで三人を招いた。彼は自分の弱味や弱い部分を隠すのが上手い。
「珈琲、淹れるね。きりねさんには及ばないけど……綴さんはココアで良いかな」
 今日夜と綴は、ありがとう、と返事をした。
「えぇ……ありがとう」
 続が顔を曇らせたが、キッチンに向かう月詩は、それに気がつかない。
「というか、俺たちまで成り行きでついて来たが……よかったのか?」
「あぁ、お気になさらず。皆様の耳に入れておきたくて……」
 今日夜がこの状況を案じているとき、月詩は、違うことを心配していた。
 小さめのダイニングテーブルに、物置と化していた椅子を引っ張ってきて2つずつ向かい会うように、4つ用意したのだが、今日夜と綴が隣あって座っている。つまり、続の隣に座るのは、月詩ということになる。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう……そう何度も心の中で唱えるが、何も解決するはずなく、相変わらずの微笑みで、どうぞ、と珈琲とココアをテーブルに置き、ガッチガチに緊張したまま、月詩は席についた。