ダーク・ファンタジー小説
- Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜復旧 ( No.55 )
- 日時: 2016/01/16 11:59
- 名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)
「キョウヤおにいさんがおはなしでいってて……シグレおにいさんがびっくりしてた……」
ココアの入ったカップを両手で持ったまま綴は言った。思い出そうとするが、なかなか出てこないようで、もどかしげに眉をひそめる。それを見て、今日夜は呟いた。
「……巫」
「神に仕える者のことですわね……誰かの名前、なのかしら」
今日夜は確かに『鈍』と言った。彼は『巫』何て言う名前は聞いたことも無かったし、あんな出来事があったのに、間違えるわけがなかった。
記憶というノートの文字を消しゴムで消して書き換えたような、不可解な出来事。原因はなにか、今日夜には検討がつかなかった。ただ、いつもおちゃらけた調子の枝暮のいつになく動揺した様子をみて、何かが起きていることを感じた。
「何者なんだろうねー……というか、俺もいまいち知らないけど、鈍さんと因縁があるみたいだよね、彼」
「そうなのか?」
「ええ、討蜘蛛さんはお1人でいることが殆どでしたけど、お店でお2人で話していることがありましたわ」
「仲良くっていうよりかは……鈍さんが一方的にからかってるみたいな感じだったけどね。あからさまに怒らせてたよ」
「……そう、か」
やはり『討蜘蛛』は俺が殺した筈のアイツなのか、と今日夜はますますその存在を否定したいと思う。どういうことなのか全くわからない分、恐怖や焦りは大きくなるし、真実だと裏付けることが起これば起こるほど、嘘だと思いたくなる。
実はアイツを殺したことがある、なんて誰にも言える筈がない。枝暮に相談してみようかとも一瞬思ったが、あの時枝暮と鈍の関係が悪い物だと分かったときその考えは一瞬で選択肢から消えた。
「キョウヤおにいさん、シグレおにいさんに会いに言ってみたら?」
「そうだね、2人に関係がないともいえないし、もしかしたら何かわかるかも」
月詩は綴の提案に賛同を示した。月詩は続の力になりたいという思いがあるが、長年の付き合いになる知り合いが何かに巻き込まれていたり、大変なことになっていたりするのならば、助けなければならない、という思いも強くあった。
「この時間なら、彼、お仕事かしら……確か書店で働いているのよね?」
「あぁ……かもな」
確か平日のこの時間は家に来たことが無かった気がする、と今日夜は記憶を辿って言った。