ダーク・ファンタジー小説

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜復旧 ( No.58 )
日時: 2016/01/24 11:28
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

「……にしても、どこにいったんだか」
 平日の午前、大人は仕事に行って、子供は学校へ行っている静かな住宅街を、今日夜と綴は、二人でゆっくりと歩いていた。
「どこにいるんだろうね……」
 綴はうつむきながら、小石を蹴りつつ進んでいた。うーん、と悩みながら、強く石を蹴ったら、コロコロと転がっていった石が下水道へ穴に入り、綴は、あ、と小さく声をあげた。
「ん、疲れてねぇか?」
 今日夜はどうしてものときだけではあるが外出もしていたが、綴にとっては久しぶり……いや、初めての歩きによる外出なのだろう。少し息があがっている綴の様子を見た今日夜は、足をとめて優しく問いかけた。
 綴は、彼女からひたら高いところにある今日夜の顔を見上げて答える。
「ううん、すこしつかれたけど……だいじょうぶだよ……」
「そうか? でもまだアイツの家まで距離あるからな……無理、すんなよ。……ほら」
 そういうと、今日夜は綴に背を向けてかがんだ。一瞬意味が理解できなかった綴だが、すぐにおんぶだということに気がつき、顔を綻ばせた。
「……どうしたんだ? 乗れよ」
「……うんっ」
 肩から首に手をまわしてしがみつくと、広い背中から、直接その体温が感じられた。
 綴は、過ぎし日のことを思い出す。
 まだ父と母が優しかったころ、何回か、父におんぶや肩車をしてもらったことがあった。
 外にでられないというおかしな環境ではあったが、普通の家族愛を……幸せを、彼女は持っていた。今日夜とは違い、彼女は愛されていた。
 しかし、ある日からそれは変わった。綴が、『外に出てはいけない』という約束を破って、こっそりと公園へ出たあの日。
 仲間に入れてくれた、優しい子供たちと、それを見守る温かい保護者たち。楽しそうに談笑する人々、はじめて本物をみる、鳥や犬や、木々の間を通り抜ける、爽やかな風。
 母親と父親から、とても怖い場所だと言われていたそこは、とても素晴らしい、明るい世界だった。
 おさえきれない好奇心からでてみたものの、不安だった彼女は、安心して、もうひとつの約束も、破ってしまった。
「良い? 手袋をはめたほうの手は、絶対に、強く物をつかんじゃダメよ」
 母が言ったその言葉を、すっかり忘れて、彼女は、公園の遊具の手すりを、つかんでしまった。

 突如あがった甲高い悲鳴と、不穏にざわめく公園。彼女を中心にして、まわりから、じりじりと人があとずさっていく。

 彼女が掴んだ頑丈な金属製のそれは、人外の力で、ぐにゃりと、歪に歪んでいた。